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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

蜂矢真弓(2018.10)一音節名詞被覆形

蜂矢真弓(2018.10)「一音節名詞被覆形」青木博史・小柳智一・吉田永弘編『日本語文法史研究 4』ひつじ書房

要点

  • 1音節名詞被覆形とそれに対応する1音節名詞露出形・2音節名詞露出形の分布について
    • 2音節を取るのは、単独母音を避けるためか、もしくは別語との同音・類音衝突を避けるため
    • 1音節を取った場合、露出形の勢力が強かったために残るか、もしくは別語の勢力が強く、露出形が衰退する

問題

  • 1音節名詞被覆形に対応する露出形には、以下の2パターンがある
    • (1) 1被覆形:1露出形→[手]た:て
      • [目]ま:め2、[身]む:み2、[木]こ2:き2、[木]く:き2、[火]ほ:ひ2 など
    • (2) 1被覆形:2露出形→[足]あ:あし
      • [網]あ:あみ1、[海]う:うみ1、[弓]ゆ:ゆみ1、[波]な:なみ1、など
  • 1を選択する被覆形は14組、2を選択する被覆形は10組、両方を選択する被覆形は1組で、選択理由が明らかでない
  • 「どちらを取るのか」を明らかにするために、以下の2つの仮説を立てる
    • 仮説1 1音節名詞露出形との対応を基本とみなす
    • 仮説2 それを避ける必要がある場合に、2音節名詞が選ばれる
  • 先に(2)から見ていく

1被覆形:2露出形

  • 単独母音を避けるためか、もしくは別語との同音・類音衝突を避けるため
  • [足]あ:あし がもし1音節を選択するとすると、対応するのは1音節露出形の「え」となるが、避けたい
    • 名詞露出形は複合語後項となり得るが、単独母音「え」が後項に来ると母音連続が起こるので、それを避けた
    • [網]あ:あみ(✕え)、[海]う:うみ(✕い)、[弓]ゆ:ゆみ(✕い)も同様
  • [波]な:なみ は、なむ(並)との関連性によって「なみ」を選択した可能性がある他、1音節を選択した場合に露出形は「ね」となるが、1音節名詞「根」が存在するために、これを避けたものか
    • 生物語彙は基本語彙であるため、それとの衝突を回避した
    • 同様、[節]ふ:ふし が1音節を選択すると「ひ」となり、[火]ほ:ひ2 と衝突するためそれを避けたか
    • [鳥]と2:と2り →ち(血)との同音衝突
    • [端]は:はし→へ2 となり、へ1(辺)との類音衝突
  • す(酢):すし(鮨)に関しては、露出形「すし」が形容詞「すし」によるものであることを考えて除外

1被覆形:1露出形

  • 上とは逆に、基本的語彙であるために他の語との同音衝突を回避する必要がなかったもの
    • [目]ま:め2、[身]む:み2、[木]こ2:き2 など
    • [目]ま:め2 については、め2(芽)、め2(海布)もあるが、「目」も同等以上に勢力が強い(また、後者のめ2は最終的にわかめ2などの複合語にしか現れない)
    • [身]む:み2 は、み2(実)もあるが、同源である。その他略。
  • もしくは、同音衝突することによって衝突された側が衰退する
    • [日]か:け2や[笥]か:け2 は基本的語彙け2(毛)があり、露出形が衰退する
  • これらの複合パターンである か(髪)→け2・かみ1 については、
    • まず、1音節の場合、同音衝突を回避する必要がなく、け2(毛)が残る
    • かみ2(髪)は意味分化(頭に生える毛という「毛」の1部)の結果、2音節を取るという2つの選択を行った

雑記

  • こえ~って思った