権景愛(1999)上代日本語における母音脱落:音数律との関連に着目して
権景愛(1999)「上代日本語における母音脱落:音数律との関連に着目して」『国語学』197.
要点
- 上代における母音脱落について、以下の2点を示す
- 韻文の母音脱落は、特に付属語の場合に「連母音の回避」から説明できない例がある
- ニアリ・ナリは、宣命では非脱落系のニアリが用いられやすく、韻文はナリが用いられやすい。フォーマルな場合には非脱落系が、韻文では音数の制約から両方が用いられたことを意味する
本論
- 脱落・非脱落についての従来説(結合度など)は文体差を考慮に入れていない
- 以下の三類に分けて、韻文・散文(万葉仮名文書、宣命)での脱落の現れ方の異なりを検討する
- A:語+母音音節(荒磯 アリソ)
- B:語+付属語+母音音節(吾妹 ワギモ)
- C:~アリ型 C1 付属語+アリ (ナリ) C2 形容詞連用形+アリ カリ
- 散文の場合、脱落形とみなされる例はCのうち、ほぼナリに限られるが、非脱落形の方が多い
- 韻文の場合、A-Cのいずれも見られるものの…
- Aは語ごとに脱落形か非脱落形かが一定する傾向にあるが(アリソはあり、アライソはない)
- B・Cや、オモフを後接する場合(A・B)は両方が現れ、どちらが多いとも言い難く、「連母音の回避」からは説明し難い
- 韻文に見られる以下2点の事実を踏まえると、母音脱落が「韻文における音数律の調整に適用されていた」と考えることができる
- 脱落形が現れる歌のほとんどが定数句をなしている
- 句を越えて脱落を生じる例がない
- B・Cやオモフにおいて脱落が可能だったのは、以下の事情による
- B・C・オモフは前接する部分に損傷を与えず(アレモフ)比較的復元が可能な形で、韻文用語として用いられた
- Cの~アリ型は口頭語では両形が共存していたが、宣命などではフォーマルな非脱落形が用いられやすく、韻文では音数律の調整にあわせて選択されるという傾向がある
雑記
- 早田(2017)を読む会というか、誰かが読んで教えてくれる会をしたい(自堕落)