森勇太(2011.9)授与動詞「くれる」の視点制約の成立:敬語との対照から
森勇太(2011.9)「授与動詞「くれる」の視点制約の成立:敬語との対照から」『日本語文法』11-2
要点
- クレルが持つ視点制約について、
- 中古においてはそれが存しなかったこと、クレル・テクレルがタブ・テタブと共通性を持つことを示し、
- 「話し手を高めない」という語用論的制約のもとで成立したものと見る
問題
- 現代語クレルには、補語視点でしか使用できない視点制約があるが、
- 太郎が私にプレゼントをくれた(補語視点)
- 私が太郎にプレゼントを{*くれた/やった/あげた}(主語視点)
- 中古語では制約が存在しないように見える
- あたらあが子を何のよしにてかさるものにくれて[=与えて]は見ん。(落窪)
- この視点制約の成立過程を示す
分析
- 中古のクレルは基本的に上位者から下位者への授与
- 他の授与動詞の運用と対照して考える
- 尊敬語語彙:たうぶ、たぶ、たまふ
- 非敬語語彙:あたふ、えさす、くれる、とらす
- このうち、補語視点用法を一定数持つのは、尊敬語語彙とクレルのみ。クレルは敬語語彙と同様、上下関係で運用されていたものと考える
- クレル・タブはいずれもテ形を持ち、形式上並行する
- タブはクレルと同様、上位者から下位者への授与を表す
- 帝は受け手にならず、従者は与え手にはならない
- 日葡にも上位者から下位者への授与と記述される
- タブはクレルと同様、上位者から下位者への授与を表す
- 本動詞・補助動詞の視点のあり方を見ると、
- 12-15Cにおいて、本動詞タブは主語視点・補語視点の両用法があり、テタブは補語視点のみ
- クレル・テクレルはいずれも17Cまで主語視点・補語視点の例があるが、テクレルの主語視点用法は「胴切にしてくれふ」のような蔑みの意味があるもので、基本的には補語視点のみが用いられていたと考えられる
- テクレルの特殊な用法は「上位者から下位者」というクレルの構造を援用して、聞き手を下位者に置くことによる
- すなわち、クレル・テクレル・タブ・テタブは、本動詞はどちらも主語視点・補語視点をともに用いることができたのに対し、補助動詞は補語視点のみが用いられた
- クレルの視点制約は「話し手を高めてはいけない」という語用論的制約のもとで、補語視点用法に偏って用いられるようになったものと考える
- 主語視点の制限は、「主語と補語の人物の関係に即して語彙を用いる」という運用から、「発話場面ごとに話し手が認定する人物を高め、話し手を高めないようにする」という運用への変化
- 対者敬語の発達、第三者待遇の抑制、自敬表現の衰退など、固定的な身分関係に基づく敬語運用から聞き手配慮のための発話場面ごとの待遇の変更という運用への変化とも連動している
- 本動詞と補助動詞に制約の差異があることについて、
雑記
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