小柳智一(1996.3)禁止と制止:上代の禁止表現について
小柳智一(1996.3)「禁止と制止:上代の禁止表現について」『国語学』184
要点
- 上代(・中古)の禁止について、
- 禁止する対象によって、禁止(事前阻止)、制止に分けられ、ナーソ・ナーソネ・ナーはその両方(その中間の抑止)を表すが、ーナは強い禁止のみを表す
- 禁止は陳述副詞、仮定条件句と呼応・照応し、制止は指示副詞・程度副詞、詠嘆・「なくに」の句と呼応・照応する
前提
- 古代語の禁止表現4種類
- Ⅰナーソ
- Ⅱナーソネ
- Ⅲナー
- Ⅳーナ
- このうちⅠⅣは上代・中古を通して用いられるが、ⅡⅢは上代のみで、中古には見られない
- 用法上の差異については、禁止の強さに注目する研究が多いが、禁止する対象についても指摘もある
- 禁止の対象が「実現しているかしていないか」という点に着目するものだが、指摘にとどまるので詳細に見ていく
禁止と制止
型と用法の関係
- 例えばⅠ型は、
- 葦垣の末掻き別けて君越ゆと人にな告げそことはたな知れ(3279)
- 照る月を雲な隠しそ島陰に我が舟泊てむ泊まり知らずも(1719)
- 未だ実現していないものを予め禁じることを「禁止」、既に実現しているものを中断させることを「制止」と呼ぶと、前者が禁止に、後者が制止に該当する
- Ⅱ・Ⅲにも禁止・制止の両方が見られるが、Ⅳには禁止しかない
- 犬上の鳥籠の山なる不知哉川いさとを聞こせ我が名告らすな(2710)
構文上の特徴
- 構文上の特徴を見ていくと、多くは禁止・制止のどちらかに偏って現れる
- 禁止:使役性述語、受身性述語、忘る、散る、絶ゆ、たなびく、立つ、踏む
- 動作全体を一まとまりとして意味しやすい語
- 制止:恋ふ、わぶ、降る、刈る、鳴く
- 動作の過程や継続の相を意味しやすい語
- 禁止:使役性述語、受身性述語、忘る、散る、絶ゆ、たなびく、立つ、踏む
- 呼応する副詞に明確な区別があり、
- 禁止:陳述副詞
- ゆめよ…告らすな(590)、結ふなゆめ(1252)
- 制止:指示副詞(現場指示)、程度副詞
- 指示副詞は現場指示、程度副詞も目前で実現することの程度の表すもので、現場指示に近いところがある
- しかもな言ひそ(3847)、かくなせそ(伊勢)
- いたくなはねそ(153)、あはにな降りそ(203)
- 禁止:陳述副詞
- 照応する句にも区別があり、
- 禁止:仮定条件
- 心あらば我をな頼めそ(3031)
- 仮定条件と禁止は未だ実現していないという点で合致する
- 制止:詠嘆、「~なくに」
- やはり今まさに遭遇している事態に対するもの
- 禁止:仮定条件
上代の禁止
- 典型から外れる例は、抑止ともとれるもので、制止と禁止の両者を繋ぐもの
- 酒殿は今朝はな掃きそ(神楽歌86)は、ひとつづきのことを中断させる点で制止に近いが、「今朝」はまだ実現していないので禁止にも近い
- ⅠⅡⅢは用法上の差異がないが、Ⅰが圧倒的に多いので一般的で、ⅡⅢは歌謡にのみ用いられる、特殊な形とみられる
- Ⅳは禁止しかなく、しかも、禁止の度合いが強い
- 文末でようやく禁止の意が出るーナは、切羽詰まった制止の意を表すのに適した形ではなく、
- 禁止に限られるためにその濃度が濃くなったためか
雑記
- おいしそ~勉強になる~