ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

通史

于康(1996.11)「いかに」の述語用法

于康(1996.11)「「いかに」の述語用法」『国語国文』65(11). 要点 「いかに」は修飾用法(いかに~。)とは区別される述語用法(~はいかに。)を持ち、 これは、漢文訓読語の用法である。 訓読文では「述格に立つ」用法(築島1963)があり、 平安和文では…

林禔映(2017.5)副詞「所詮」の史的変遷

林禔映(2017.5)「副詞「所詮」の史的変遷」『日語日文學研究』101(1). 要点 所詮が否定的意味を持つこと、「詮ずるところ」と訓読される例に注目しつつ、その歴史について考える。 史的変遷、 原義は仏教語の「大乗の経典によって表されること」であり、中…

川瀬卓(2011.4)叙法副詞「なにも」の成立

川瀬卓(2011.4)「叙法副詞「なにも」の成立」『日本語の研究』7(2). 要点 ナニモに以下の2種があることを踏まえ、その歴史的変化について考える。 数量詞相当:ごはんをなにも食べなかった。 叙法副詞:なにも野菜が嫌いなわけじゃないよ。 一方で室町には…

佐々木文彦(2012.3)副詞「ふと」の意味・用法の変遷について

佐々木文彦(2012.3)「副詞「ふと」の意味・用法の変遷について」『近代語研究16』武蔵野書院 要点 『三四郎』の「三四郎はとんだことをしたのかと気がついて、ふと(≒あわてて・急いで)女の顔を見た」の現代語からの違和感を手がかりとして、その意味変化…

李知殷(2012.8)副詞「多分」の史的変遷をめぐって

李知殷(2012.8)「副詞「多分」の史的変遷をめぐって」『立教大学大学院日本文学論叢』12. 要点 「多分」が「大多数」の意から、副詞へと変化する過程について。 中世の「多分」は、「ある集団、物事のなかの多い部分」を表す例が多く、一部、動詞に係る形…

吉本裕史(2022.3)副詞「ちゃんと」の語史

吉本裕史(2022.3)「副詞「ちゃんと」の語史」『Nagoya Linguistics』16. 要点 以下のチャント2種のうち、a は様態副詞、b は評価成分であり、a → b の派生が想定される。その派生過程を確かめる。 a [[ちゃんと動か]ない] b ちゃんと[[動か]ない] …

吉本裕史(2020.11)副詞「きっと」の語史:推量の用法の成立についての考察

吉本裕史(2020.11)「副詞「きっと」の語史:推量の用法の成立についての考察」『名古屋大学国語国文学』113. https://doi.org/10.18999/nagujj.113.168 要点 情態副詞のキット(きっと目元を引き締めた)が推量の用法(陳述副詞、きっと好転する)を獲得す…

古田龍啓(2022.3)副詞タシカの語史

古田龍啓(2022.3)「副詞タシカの語史」『日本語文法』22(1). 要点 副詞タシカが想起文でのみ使われ、タシカニと区別されるようになった経緯について考える。 日国では噺本(17C末)に見られる推量を伴うタシカが挙げられるが、洞門抄物に以下の例があると…

橋本博幸(1990.6)漢文訓読語の国語文への受容:「サダメテ」の場合

橋本博幸(1990.6)「漢文訓読語の国語文への受容:「サダメテ」の場合」『訓点語と訓点資料』84. 要点 サダメテをケースに、「(漢文)直訳語がどのように国語文に受容されていったか」(例えば、意味や用法はそれをそのまま踏襲するのか?)を考える。 訓…

杉山俊一郎(2016.9)古代日本語における「にして」の意味領域について

杉山俊一郎(2016.9)「古代日本語における「にして」の意味領域について」『訓点語と訓点資料』137. 要点 ニテとの比較と文体差を考慮しつつ、古代語のニシテの機能について考える。 上代は、 ニシテが多くニテは少なく、 ニシテの用法は場所・時・状態に限…

岩田美穂(2021.1)述語句並列におけるミ並列の位置づけ

岩田美穂(2021.1)「述語句並列におけるミ並列の位置づけ」『就実表現文化』15. 要点 完了形式系の並列形式は、鎌倉頃にヌ・ツ・タリ(まとめてタリ型)があり、最終的にタリ一形式となる。これ以前に見られるミによる並列が、並列表現史にどのように位置づ…

近藤要司(2020.11)述部内部の係り結び:連体形ニアリに係助詞が介入する場合

近藤要司(2020.11)「述部内部の係り結び:連体形ニアリに係助詞が介入する場合」青木博史・小柳智一・吉田永弘編『日本語文法史研究5』ひつじ書房. 要点 ニアリ構文に係り結びが介入する例の変遷について考える。 間なく恋ふれにかあらむ草枕(万621) 上…

菊池そのみ(2022.3)〈付帯状況〉を表す「形容詞+まま」の史的展開

菊池そのみ(2022.3)「〈付帯状況〉を表す「形容詞+まま」の史的展開」『論究日本近代語2』勉誠出版. 要点 形容詞+ママ(ニ・デ)を以下の分類に分けると、現代語にはAとBがあるが、中古にはAしかない。 A〈随意〉:草葉につけてかなしきままに、…つゆ寝…

野村剛史(2015.5)通時態から共時態へ:その2(ノダ文・ナリ文の場合)

野村剛史(2015.5)「通時態から共時態へ:その2」『国語国文』84(5). 要点 野村(2013)で主張した「共時態の記述に際する通時的研究の重要性(不可欠性)」について、アスペクト・テンス、ノダ文を事例として扱う(前半は前の記事で)。 「事情文」(説明…

野村剛史(2015.5)通時態から共時態へ:その2(アスペクト・テンス体系の場合)

野村剛史(2015.5)「通時態から共時態へ:その2」『国語国文』84(5). 要点 野村(2013)で主張した「共時態の記述に際する通時的研究の重要性(不可欠性)」について、アスペクト・テンス、ノダ文を例にして述べる(後半は次の記事で) 言語学研究会の提示…

野村剛史(2013.10)通時態から共時態へ

野村剛史(2013.10)「通時態から共時態へ」『日本語学』32(12). 要点 ソシュールの「共時態の記述に通時態を持ち込んではならない」という立場は、受け入れ難く、共時態記述には通時的研究が不可欠であることを主張する。 以下、ノダ文を例に、共時態と通時…

大坪併治(1981)提示語法

大坪併治(1981)「提示語法」『平安時代における訓点語の文法』風間書房. *1 要点 「文中のある語を無格のままで提示し、これを代名詞で受けて特定の格を与へる形式」を「提示語法」と呼ぶと、平安時代の訓点語にはそれを幅広く認めることができる 第一義、…

鈴木薫(2020.2)中古中世における「むとす」と「むず」

鈴木薫(2020.2)「中古中世における「むとす」と「むず」」『国語研究(国学院大学)』83. 要点 以下の分類を用意し、ムトスとムズの用法差を記述する 以下、①⑤は現代語のヨウトスルにはなく、ムトス・ムズには存する 意志的 ①自身の意向(文末):(自身が…

山田昌裕(2022.3)格助詞「ガ」の用法拡大の様相:17世紀から明治大正にかけて

山田昌裕(2022.3)「格助詞「ガ」の用法拡大の様相:17世紀から明治大正にかけて」『論究日本近代語第2集』勉誠出版. 要点 17C以降、格助詞ガの上接語が名詞句以外に拡張することを主張する 17C以降に、テ節・引用句を、 ひえてしとをしてがよからふ(醒睡…

金銀珠(2022.1)主格助詞「が」の拡大と準体法の衰退

金銀珠(2022.1)「主格助詞「が」の拡大と準体法の衰退」『中部日本・日本語学論集』和泉書院. 要点 連体形+ガが、主格のNガの確立の際に与えた影響について、以下4点を主張する NガにおけるNは、古代語では指示対象が明確であるが(金2016, 2019)、中世…

金銀珠(2020.11)主格助詞「が」が係る述語の拡大:上代から中世までを対象に

金銀珠(2020.11)「主格助詞「が」が係る述語の拡大:上代から中世までを対象に」『名古屋大学国語国文学』113. 要点 ガの係る述語は、中古では活動的な動詞が9割程度を占める(金2016)が、その後、状態性の高い方へと拡張する 述語の品詞は、活動動詞→非…

Kanako KOMIYA, Aya TANABE, Hiroyuki SHINNOU. 2022.7. Diachronic Domain Adaptation of Word Sense Disambiguation in Corpus of Historical Japanese Using Word Embeddings(分散表現を利用した日本語歴史コーパスにおける語義曖昧性解消の通時適応)

Kanako KOMIYA, Aya TANABE, Hiroyuki SHINNOU. 2022.7. Diachronic Domain Adaptation of Word Sense Disambiguation in Corpus of Historical Japanese Using Word Embeddings. NINJAL Research Papers. 23. 古宮嘉那子・田邊絢・新納浩幸(2022.7)「分散…

沖森卓也『日本語全史』を活用するために

沖森卓也(2017)『日本語全史』ちくま新書は、「学部生にリファレンスとしてとりあえず持っておいてほしい本」として抜群のコストパフォーマンスを誇る。 www.chikumashobo.co.jp が、広い分野・時代に亘って記述することの弊害か、特に、著者の直接的な専…

菊池そのみ(2021.8)古典語における形容詞テ形節の副詞的用法の変遷

菊池そのみ(2021.8)「古典語における形容詞テ形節の副詞的用法の変遷」『国語語彙史の研究40』和泉書院. 要点 標記の問題について、以下2点を考える 通時的概観と、下接する動詞の特徴についての検討 形容詞テ形節の修飾のタイプに基づく各時期の様相の記…

仁科明(2006.3)「恒常」と「一般」:日本語条件表現における

仁科明(2006.3)「「恒常」と「一般」:日本語条件表現における」『国際関係・比較文化研究』4(2) 要点 厳密に議論されてこなかった「恒常条件」「一般条件」の定義について考える 先行研究における定義はそれほどはっきりしないが、「結び付けられる二つの…

池田來未(2021.3)複合動詞「~ヌク」の史的変遷

池田來未(2021.3)「複合動詞「~ヌク」の史的変遷」『国文』134. 要点 複合動詞Vヌクの完遂の用法(苦難を耐え抜く)の獲得について考える Vヌクの用法を姫野2018に倣って以下のように分類する p.76 調査結果、 上代は全てが〈貫通〉(踏み抜く) 中古に…

中川祐治(2006.4)副詞はどう変化するのか:日本語史から探る副詞の諸相

中川祐治(2006.4)「副詞はどう変化するのか:日本語史から探る副詞の諸相」『日本語学』25(5) 要点 文法化の枠組みで、副詞の変化の実態とメカニズムについて考える 1 イタク・イト イタもしくは形容詞イタシから派生した語で、 イタク・イト(甲)は原義…

福田嘉一郎(1998.2)説明の文法的形式の歴史について:連体ナリとノダ

福田嘉一郎(1998.2)「説明の文法的形式の歴史について:連体ナリとノダ」『国語国文』67(2) 要点 連体ナリとノダの関係について、平家と天草平家の対照に基づいて考える 信太1970は、連体形準体法+ナリ→連体形+ノor形式名詞+コピュラへの交替を想定する…

竹内史郎(2005.1)サニ構文の成立・展開と助詞サニについて

竹内史郎(2005.1)「サニ構文の成立・展開と助詞サニについて」『日本語の研究』1(1) 要点 サニ構文の先行論3点、 a 中古のサニは形容詞語幹+サ+ニ b 室町期は単一の形態素サニ c a,bより、[[…ノ~サ]ニ]→[[…ガ~]サニ]の変化と記述できる このう…

青木博史(2003.3)「~サニ」構文の史的展開

青木博史(2003.3)「「~サニ」構文の史的展開」『日本語文法』3(1) 要点 原因・理由を表す「形容詞語幹+サ+ニ」について、句の包摂の観点から考える 消長について、 現代語で「特定の語彙に固定されてはいない」(影山1993)とされるが、 実質的にはほぼ…