ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

北原保雄・大倉浩(1983)言語資料としての『狂言記正篇』

北原保雄・大倉浩(1983)「言語資料としての『狂言記正篇』」『狂言記の研究』勉誠社*1

要点

  • 版本『狂言記』(1660刊)の言語的特徴について

四つ仮名・開合

  • 四つ仮名・開合に混乱がある
    • 字[じ]がたりませぬ/ぢがたりませぬ
    • 連濁の場合ですら間違っており(みちずれ)、混乱が進んでいることを示す
  • 表記上習慣的になったもの(経[きやう]、高[かう])もあるが、これは音韻の反映ではない

連濁・連声

  • 濁点が精細に打たれているので、濁音・清音の違いを知る資料たり得る
    • まつだけ しんがう おをざか
    • おびたたし ろし(路次)
  • 連声はナ行が多く、タ行は少ない
    • ゆだんのさせまひ
    • 連声すべき理由がないのにしているものもあり、連声がむしろ生きた現象ではないことを示す
  • 「いたそ」「いお」「いの」のような短呼形がいくらかある

特殊な語句や語法

  • 初出に近い語を多く提供する
    • 仇(あたん)、あどない(形容詞)、うい(形容詞)、おこつ(御事)、かのさま(彼様)など、
    • ~やす、~わたい
    • 接助ので
  • その他、変わった語形に、異見(いつけん)、一所(いつしやう)、音す(おつとす)など
  • 変わった語法に、
    • 「ということ」の意の「と事」(鬼のあると事はぞんぜなんで御ざる)
      • 似たものに「なんとやう」「何といな」(<様な)
        • これは「みたいだ」(<みたやうだ)と同様の変化
      • 「と」が抜ける「(と)あつて」の例がある*2
    • 「何でかござるぞ」(「何でござるぞ」「何でかござる」とありたい)
    • 「てからは」(=たからは・た異常は)
    • そなたとおれと「か」おぢやらぬわいの。(=しか・ほか)
    • 已然形縮約の「立つりや」(<立つれば)
    • 助動詞ある(<やる)
  • これらは室町以前のものというより、江戸時代の歌舞伎や浄瑠璃のそれに通じるところが大きい

二段活用の一段化

  • 一段化率は延べ55%、異なり60%
  • 虎明本(4%)に比してきわめて高い
  • 上二段はいっさい一段化しておらず、これは江戸時代の一般的傾向(奥村三雄説)と逆である
  • なお、珍しいものに、一段化した已然形の例がある

活用の揺れ

  • 活用の揺れがあるものに、
    • 申さぬ・申すやう / 申せしやうは・申すれば
    • 遊ばする 許する 致する さっしゃるる 放する などの下二段的例
      • これは、二段活用動詞の連体形終止法の類推による(抄物の「見ゆるる」と同様)

雑記

  • O手門大学、ヤバいやん

*1:序文によれば「解説」はすべて北原稿

*2:室町の接続詞っぽい?