北原保雄・小林賢次(1985)言語資料としての『続狂言記』
北原保雄・小林賢次(1985)「言語資料としての『続狂言記』」『続狂言記の研究』勉誠社*1
要点
- 『続狂言記』(1700刊)の言語的特徴について
四つ仮名・開合
- 正篇同様乱れているが、ただ乱れているのではなく、一定の表記意識のもとにある
- 正篇で「ぢや」とあったヂャは続では「じや」、オヂャルも「おじやる」と表記され、誤用が表記習慣として固定化している
- 表記の特徴として、和語の「う」に「ふ」を当てる傾向がある
- なふ、よふこそ、助動詞「ふ」「よふ」、瓜[ふり]盗人
- ちなみに、「御」に「お」、格助詞には「を」を用い、これらは混用されない
- 行阿仮名文字遣など、定家仮名遣の流布を背景として表記習慣が身についているものと考える(墨守しているわけではない)
連濁・連声・音便
- 濁点の精細さは正篇同様で、清濁の確認に資するところがある
- 正体(しやうだい)、三種[さんじゆ]の神器[じんぎ]など
- 久うで(<て)きて のように、マバ行ウ音便を類推する例がある
- ずは ずば の両形が存する
- 連声は正篇に比して多くない
- はいふん(配分)をしてやらふ
- 音便は、マバ行にウ音便と撥音便が、サ行にもイ音便と原形が併存する
- 合拗音は直音化しない
- 短呼形は正篇ほどは見られない
条件表現
- 長いので明日の記事へ
「ござる」「おりゃる」「おぢゃる」
- ゴザルの祖形ゴザアル・ゴザナイの例は少ない
- 近世に発達したゴザリマス(ル)も見られ、これも同様
- オリャル・オヂャルは、『拾遺』に向けてオリャルへの統一の傾向がある
- オリャル・オヂャルの否定はオリナイが主で、虎明本や虎寛本と共通する
活用体系
- 二段活用の一段化は正篇と比べて低いが、狂言全体で考えると高い
- 助動詞の場合にも一段化の例があり、可能動詞が一段で出ることも注目される
- 下二段の四段化については正篇と大きく異なり、近世前期の体系を強く反映する
- マス(ル)は終止形で基本的にマス、例外的にマスルという分布
- 命令形も同様で、正篇はマセ<マセイ、続はマセ>マセイ
- ル・ラルやル系のめさる・なさる・くださるにも同様に見られる
注意すべき語法や語句
- 「しゃる」の多用
- 「まい」の活用形「まいずれ」の例(「うずれ」に類推)
- 「女郎」(=上臈)、正篇では「上らう」とあるもの
- 「用所」(=用事・所用の意)、虎寛本では所用とあり、近世に消えつつ会った「用所」の例を留めるもの
- 餓死[がっし](餓死を強めたもの)、虎明本などには「がしん」とあり、そちらが一般的
- 案山子[かがせ]の初例
- ほか、妻の呼称の「かか」や、をなあ(女)の例など
「狂言記」における続狂言記の位置
- 次の3点に集約される
- 「狂言記」としての共通的性格
- 一段化の進行、ナラ・タラの多様、サ行イ音便の衰退
- 舞台言語としての統一の傾向
- シャルの減少、シタラバ・シタラの減少、オリャルへの統一
- 近世の語法の取り入れ
- 下二段の四段化
- 「狂言記」としての共通的性格
雑記
- ダム放水の音をはじめて聞いたんですが、「サイレントヒル!」って感じでした
*1:序文によれば、本章は小林稿、北原統一による