ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小林隆(2004)動詞活用の歴史:言語体系の変遷(動詞「起きる」を例にしたケーススタディ)

小林隆(2004)「動詞活用の歴史:言語体系の変遷」『方言学的日本語史の方法』ひつじ書房小林隆1994「活用の方言分布と歴史:「方言文法全国地図」の「起きる」について」『北海道方言研究会20周年記念論文集 ことばの世界』)

要点

  • 日本語方言の活用と歴史について、以下の4点を考える
    • 動詞「起きる」を例にしたケーススタディ
    • 二段活用動詞などに見られる一段化傾向の概観
    • 一段活用動詞などに見られるラ行五段化傾向の概観
    • 動詞活用における方言形成史のアウトライン
  • 一段化・五段化の事例を持つ「起きる」をケースとして考える
    • 否定がオキラ(ン)の地域は、命令形でオキレ、意志形でオキローを使う地域と重なり合うなど、活用形間には関連性がある
  • 以下、活用語尾を前部(オル)と後部(オキ)に分けて考えると、
  • 前部は以下のような分布を示し、歴史的には、
    • キャと東海地方の命令形のキョを持つ体系は、それを持たない体系より新しい(オキャー<オキヤー<オキリャー/オキャーヘン<オキヤヘン)
    • 北陸~九州の意志形のキョ・キュはむしろ古い体系
    • 大分~宮崎のキ・ケ・クの体系において、キ(命令形)はオキー<オケ+イと推定され、形態の融合による新しい形
    • 大阪のケ(否定形)はオケヘン<オキャヘン<オキヤヘンという新たな形で、同じ九州以南のケ(オケン・オケラン・オケタ)とは質が異なる
    • 一種類の体系の方が新しそうだが、まだよく分からないので、後部のことを考える

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p.547

  • 後部においてはラ行拍の有無が特徴的で、
    • ラ行拍0の体系が近畿などの中央にあり、豊富に有する体系が周辺部に存在する
    • しだいにラ行拍が増えていくという連続性を持つ
      • 0と1の関係は基本的に周圏論的だが(オキリャー→オキタラへの交替によるものが主)、
      • 2拍以上の場合は周圏論が当てはまるとは言えず、むしろ周辺地域で独自に発達したものと考える
  • 特に九州の終止オクル、連体オクル、仮定オクレは古態を残すが、仮定形に遅くまで二段活用が残ったとする中央語史上の傾向は方言には認められない
    • 上二段>上一段>ラ行五段という推移が分布から想定されるが、上二段とラ行五段の複合地域もあることには注意
    • 下二段の発生は今のところ不明

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p.550

雑記

  • 録画行為、異常に疲れるわね