ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

梅原恭則(1969.11)古今著聞集に於ける助動詞の相互承接

梅原恭則(1969.11)「古今著聞集に於ける助動詞の相互承接」『文学論藻』43

前提

  • 実際の作品の分析・調査がなされたことがないので、古今著聞集をケースとして相互承接を検証したい

実態

  • 以下表のようにまとめられる
    • ナリ・タリ・ゴトクナリは「叙述の働きを与える」ものなので別立てで考える

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pp.49-50

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p.52

例外処理

  • (ラ)ル+(サ)スの4例は、(サ)スが使役でなく尊敬の意であるので、問題ではない
    • 聞かれさせ給はざりければ、
  • ベカリ+ツ、ザリ+ツル、ザル+ベシなども、上位語を動詞アリに準じて考えればよいので問題にならない
  • しかし、中古の相互承接の研究に鑑みるに、ベシ・マジ(Ⅲ)とズ(Ⅳ)は逆なのが一般的のようで、ベシの2種の意味(主観的・客観的)に推移があったと考えられる
    • 著聞集はザルベシ1例、ベカラズ48例

著聞集の文体

  • 源氏と3語承接を比較すると、
    • 受け継ぐもの:ぬべかりけれ・たりつらん・ぬべかりつる
    • 新しいもの:ぬべからん・べかりつらん・りたりけれ・にけらし
  • 使用状況は和文
    • ナリは多く、タリは少ない
    • ス・サスは多く、シムは少ない
  • 通時的変化として
    • 中古に存在しない(サ)セラルがあり、
    • 中古にあまりないムズがムズラムとしてよく見られ、メリは減少
    • ラムは存するが、ラシは和歌に1例のみ
    • すなわち、中世的語法も指摘できる一方で、中古の助動詞はほぼ継承されている
  • 著聞集には顕著な特徴は、
    • ケリの使用(単独・承接ひっくるめて)と、
    • ナリ・メリなどの主観的推量判断の強い助動詞の不使用

雑記

  • 「沢山のクローンを生み出して鎖のように繋がる海洋生物、サルパのイラストです。」らしい