ハイコ・ナロック(2004.10)メリ、ベシの過去と「連体ナリ」
ハイコ・ナロック(2004.10)「メリ、ベシの過去と「連体ナリ」」『国語国文』73(10).
要点
- 北原の連体ナリを基準とした分類に、承接順序がおかしいものがあることに注目して、メリ・ベシと過去の承接について考える
- メリ・終止ナリ > 連体ナリ かつ キ・ツ> 連体ナリ であるはずだが、(連体)ナメリ、シナリ、メリシ がある
- ベカリシ、ベカリツも同様の問題がある
- 特に以下の2点に注目すると、
- モーダルな判断が過去のものか現在のものか
- ベシ・メリの多義性がどのように現れるか
- ベシは当為(妥当)と必然性から発達した種々の意味
- メリは evidential と婉曲(語用論的機能)
- ベシ+過去は、
- 自然ななりゆきを意味する「必然性」を表し、意志・勧誘・推量などの主体的な用法はない
- 判断は、あくまでも(過去の判断ではなく)「過去を経験した「現在」の視点からの判断」である
- そう考えると、論理的にはベシ+過去の順である必然性はない(ベシが独立語だった頃の名残りか、過去も純然に「客体」ではないことに起因するかも)
- 上の必然性を表すベシは「ベシ+連体ナリ」と共通し(北原の分類を裏付ける)、連体ナリ+ベシは対照的に、現在事態への推量を表す
- メリ+過去は、ベシとは異なり、「意味用法の制限を特に受けていない」
- 多くは知覚に基づく様態推量を表すが(これは北原と同様)、
- 婉曲を表す場合もある:7月にぞ后ゐたまふ__めりし。(源氏・紅葉賀)
- 判断も、ベシとは異なり「過去における判断」である(≒~ようだった、らしかった)
- 上接する時制的表現に注目すると、
- ヌ・ツ+「ベシ+過去」は多いが、メリの場合はまれ
- ベシは状態的・静的で、上に動的な事態を求めやすく、一方のメリは静的な性格を持たないことによる偏りと考えられる
- これらの「「ベシ」と「メリ」の意味の違い、とりわけ「客体」「主体」などといった概念においての違いは、相互承接など、体系的なものとしてより、助動詞個々の個性的な意味の次元で捉えたほうが有益かもしれない」(p.64)