ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

助動詞

釘貫亨(1999.7)完了辞リ、タリと断定辞ナリの成立

釘貫亨(1999.7)「完了辞リ、タリと断定辞ナリの成立」『万葉』170. 要点 「どのような文法的条件によってテアリからタリが、ニアリから断定ナリが、また動詞+アリからリを生起したのか」について考える。 タリ・テアリについては、以下の特徴が認められる…

高山善行(1999)連体ナリの已然形

高山善行(1999)「連体ナリの已然形」『国語語彙史の研究18』和泉書院. 要点 中古の連体ナリには、連体ナレド・ナレバとしての、已然形として積極的に認められる例が(ほぼ)ない ナレバには、連体ナリと確定できる例がなく、同形ナリ(終止ナリと区別のつ…

仁科明(1998.12)見えないことの顕現と承認:「らし」の叙法的性格

仁科明(1998.12)「見えないことの顕現と承認:「らし」の叙法的性格」『国語学』195. 要点 ラシの性格と、妥当な理解について考える まず、ラシを「根拠ある推量、確かな推量」という従来的理解、ひいては「推量」とする理解そのものに限界がある (この…

月本雅幸(1992.11)院政期の訓点資料における助動詞

月本雅幸(1992.11)「院政期の訓点資料における助動詞」『国語と国文学』69(11) 要点 平安初期訓点資料に比して院政期訓点資料が活用されることは少ないが、価値が低いとは言い切れない 当時の口語を含む部分がありそうな一方で、移点などによる年代的重層…

坂詰力治(2002.3)中世における助動詞の接続用法に関する一考察:終止形接続の助動詞「まじ」「らん」「べし」を中心に

坂詰力治(2002.3)「中世における助動詞の接続用法に関する一考察:終止形接続の助動詞「まじ」「らん」「べし」を中心に」『文学論藻』76 要点 終止形連体形の統合が終止法以外の終止形にも及ぶことについて、特に室町におけるマジ・ラン・ベシを見る 室町…

大塚光信(1962.9)助動詞マイの成立について

大塚光信(1962.9)「助動詞マイの成立について」『国語学』50 要点 口語法別記ではマイの成立に以下の過程を想定する 甲:終止形マジがマイとなり、そのマイが連体形マジキの領域を侵した 乙:終止形マジが連体形マジキの領域を侵し、終止・連体形両用とな…

山口堯二(2001.10)「やうなり>やうだ」の通時的変化

山口堯二(2001.10)「「やうなり>やうだ」の通時的変化」『京都語文』8 前提 やうなり>やうなる>やうな>やうぢや>やうだ の変化の見通しを示したい 以下の用法に分類できる 類縁性(様相の類似するもの同士を関係付ける) 例示 一致(この前のようにやる)…

李淑姫(2006.8)虎明本狂言集における「ウと思う」の用法:推量・意志の助動詞「ウ」との比較

李淑姫(2006.8)「虎明本狂言集における「ウと思う」の用法:推量・意志の助動詞「ウ」との比較」『日本學報』68 要点 虎明本のウと思う は意味的にはウよりも狭く、機能的にはウを補う 前提 虎明本のウと思うはウ同様、意志推量を表すが、意味機能に異なり…

山内洋一郎(2007.10)助動詞「そうだ」の表記と機能:中世語研究の視点を中心に

山内洋一郎(2007.10)「助動詞「そうだ」の表記と機能:中世語研究の視点を中心に」『国学院雑誌』108(11) 要点 ソウダのソウは(「様」ではなく)「相」由来で、連用ソウダが先行する 前提 ソウダのソウは相とも様とも言われるが、よく分からない ソウダの…

高山善行(1996.10)助動詞ベシの成立:意味変化の視点から

高山善行(1996.10)「助動詞ベシの成立:意味変化の視点から」『国語語彙史の研究』16 要点 主観化の方向性からすると、ベシの成立はウベシ説より接尾語説を採ったほうがよい 前提 ベシの成立2説 ウベシ説 接尾語説 接尾語マの音交替形バが、形容詞化(ba+i…

糸井通浩(2009.11)古典にみる「時」の助動詞と相互承接:「枕章子」日記章段における

糸井通浩(2009.11)「古典にみる「時」の助動詞と相互承接:「枕章子」日記章段における」『国語と国文学』86(11) 前提 「時の助動詞」の相互承接は以下の通り 縦・横の点線は相互に結合することがあり、実線は結合することがない p.2 ム どういう範列的・…

高橋敬一(1979.6)今昔物語集における助動詞の相互承接

高橋敬一(1979.6)「今昔物語集における助動詞の相互承接」『福岡女子短大紀要』17 要点 助動詞の相互承接の豊かさ、使用頻度においても、今昔の文体上の区分は実証される 前提 相互承接の文体差に関して、築島(1963)は異なり語のみを挙げるが、使用頻度…

黒木邦彦(2012.10)中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って

黒木邦彦(2012.10)「中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って」丹羽一彌(編)『日本語はどのような膠着語か:用言複合体の研究』笠間書院 要点 ツ・ヌの承接順の共通点と異なりから、ヌと共通するツ(ツ1)とは、異なるツ(ツ2)の存在を…

梅原恭則(1969.11)古今著聞集に於ける助動詞の相互承接

梅原恭則(1969.11)「古今著聞集に於ける助動詞の相互承接」『文学論藻』43 前提 実際の作品の分析・調査がなされたことがないので、古今著聞集をケースとして相互承接を検証したい 実態 以下表のようにまとめられる ナリ・タリ・ゴトクナリは「叙述の働き…

小田勝(2010.1)相互承接からみた中古語の時の助動詞

小田勝(2010.1)「相互承接からみた中古語の時の助動詞」『古典語研究の焦点 武蔵野書院創立90周年記念論集』武蔵野書院 要点 まとめより 1 ヌはアスペクトであるが、テンスをもたない文を作る(作り得る)。 1b 従って、現代語のテンス・アスペクト体系の…

小田勝(2008.2)中古和文における助動詞の相互承接について

小田勝(2008.2)「中古和文における助動詞の相互承接について」『岐阜聖徳学園大学紀要 外国語学部編』47 要点 要旨より、 相互承接に両様あるものは6種あるが、その一方を標準的承接順とみなすことができる 中古和文の助動詞は、その承接順を一様に確定す…

菅原範夫(1991.10)延慶本平家物語の「ムズ」小考

菅原範夫(1991.10)「延慶本平家物語の「ムズ」小考」『鎌倉時代語研究』14 要点 鎌倉時代のムズはベシに意味的に近似し、前代のムズからの変容が見られる ムズの意味 ムズ単独の場合、ベシに近い意味を持つ 打上ムトスルモカナウマジ。下ヘ落シテモ死ムズ…

村上昭子(1981.3)接尾辞ラシイの成立

村上昭子(1981.3)「接尾辞ラシイの成立」『国語学』124 要点 ラシイの成立には、名詞+情態言ラ+接尾辞シイが想定される 諸説 以下3説があるが、前2説は採れない(下地となった可能性は否定できないが) 推量の助動詞ラシ由来説 時代に断絶があり、抄物に…

川村大(1995.10)ベシの諸用法の位置関係

川村大(1995.10)「ベシの諸用法の位置関係」『築島裕博士古稀記念国語学論集』汲古書院 要点 ベシの用法を、「観念上の事態成立主張用法」と「事態の妥当性主張用法」の2類に分ける その2つには「観念の次元における事態存在の主張」という共通性が見出さ…

川村大(2000.2)叙法と意味:古代語ベシの場合

川村大(2000.2)「叙法と意味:古代語ベシの場合」『日本語学』21(2) 要点 ベシを「観念上の事態の成立を承認する叙法形式」と捉えることで、その多義性を説明できる 前提 仁田・益岡らのモダリティ論は、以下の点で問題を孕む 「主観性」を持たない用法を…

高見三郎(1990.6)『杜詩続翠抄』の「マジイ」「ベイ」

高見三郎(1990.6)「『杜詩続翠抄』の「マジイ」「ベイ」」『女子大国文』107 要点 杜詩続翠抄にはマジイがある程度用いられており、ベイも固定せずに用いられている 前提 杜詩続翠抄はナリ体だが、ナリ・ゾは口語性の一つの目安に過ぎないので、マジイ・ベ…

山本淳(2003.6)仮定・婉曲とされる古典語推量辞「む」の連体形:『三巻本枕草子』にある「らむ」「けむ」との比較を中心に

山本淳(2003.6)「仮定・婉曲とされる古典語推量辞「む」の連体形:『三巻本枕草子』にある「らむ」「けむ」との比較を中心に」『山形県立米沢女子短期大学紀要』38 要点 枕草子を用いた連体ムの検証により、以下の点を指摘 連体ムに積極的な仮定の意味を認…

中沢紀子(2004.11)連体修飾節にみられるウ・ウズル

中沢紀子(2004.11)「連体修飾節にみられるウ・ウズル」『筑波日本語研究』9 要点 中世末期における連体用法のウ・ウズルについて、以下の点を示す タリ・テアル・ズとの共起が少ない 形式名詞を修飾しやすい 連体節の事態が主節より後のもの 前提 ウ・ウズ…

釘貫亨(2016.3)上代語意志・推量の助辞ムの成立と展開

釘貫亨(2016.3)「上代語意志・推量の助辞ムの成立と展開」『訓点語と訓点資料』136 前提 活用助辞ム(いわゆる助動詞)が、精神的心理的意味を持つム語尾動詞から分出されて成立したと考える(釘貫2014) ムの意味は人称によって決まるのではなく、上接語…

釘貫亨(2016.3)上代語活用助辞ムの意味配置に関与する統語構造

釘貫亨(2016.3)「上代語活用助辞ムの意味配置に関与する統語構造」『万葉』221 要点 ムの意志・推量の意について、人称ではなく上接語の意志性がその意味の決定に関与することを示す 前提 活用助辞(いわゆる助動詞)ムが、ム語尾動詞のうち「精神的心理的…

古川大悟(2019.1)助動詞マシの意味

古川大悟(2019.1)「助動詞マシの意味」『国語国文』88-1 要点 マシの意味を「対象事態を可能性として提示し、別の可能性と比較する」こととして捉え、その有効性を示す 問題 マシの意味を反実仮想とすることの問題点(山口1968)*1 反実・反事実は表現対象…

土岐留美江(1992.6)江戸時代における助動詞「う」:現代語への変遷

土岐留美江(1992.6)「江戸時代における助動詞「う」:現代語への変遷」『都大論究』29、(2010)『意志表現を中心とした日本語モダリティの通時的研究』ひつじ書房 を参照 要点 虎明本、近松世話浄瑠璃、浮世床を対象として、助動詞ウの変遷を見て、 積極…

川島拓馬(2018.1)近世・近代における「つもりだ」の用法変遷

川島拓馬(2018.1)「近世・近代における「つもりだ」の用法変遷」『筑波日本語研究』22 要点 つもりだの用法展開について 意志専用形式でなくなっていくことの指摘と、 新たな否定形式「つもりはない」の成立 川島(2018)とセット hjl.hatenablog.com 問題…

川島拓馬(2018.12)意志表現「気だ」の特徴とその史的変遷:「つもりだ」と比較して

川島拓馬(2018.12)「意志表現「気だ」の特徴とその史的変遷:「つもりだ」と比較して」『国語と国文学』95-12 要点 意志表現「気だ」について、 現代語においてどのような特徴があるか 歴史的展開 つもりだとの比較 現代語における「気だ」 第三者の意志を…

仁科明(2007.7)「終止なり」の上代と中古:体系変化と成員

仁科明(2007.7)「「終止なり」の上代と中古:体系変化と成員」青木博史編『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房 要点 終止ナリの上代から中古への変容について 問題 終止ナリは上代と中古で断絶するが、この連続性をどう考えるか 終止ナリに対応する形式…