ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

中世前期

菅のの香(2023.3)和漢混淆文における複合辞「ニオイテハ」の構文

菅のの香(2023.3)「和漢混淆文における複合辞「ニオイテハ」の構文」『上智大学国文学論集』56. 要点 和漢混淆文に見られるニオイテハを複合辞として認定し、以下の2点を主に検討したい。 ムが多く前接し、仮定条件を表すとされること。 限定・強調の意を…

徳永辰通(2010.1)「~ヤ-連体形」から終助詞カへの交替:天草版『平家物語』に見る交替の諸相

徳永辰通(2010.1)「「~ヤ-連体形」から終助詞カへの交替:天草版『平家物語』に見る交替の諸相」『人文学部研究論集(中部大学)』23. 要点 原拠本の~ヤ―連体形の天草版への置き換えについて。 まず、対応関係については、ヤで訳される例より、―カ。に置…

磯部佳宏(2000.2)古代日本語の疑問表現(下):要判定疑問表現の場合

磯部佳宏(2000.2)「古代日本語の疑問表現(下):要判定疑問表現の場合」『山口大学文学会誌』50. 要点 古代語の要判定疑問文についての、著者のこれまでの研究の整理。 形式に以下のものがある。 文中のヤにかかわるものとして、 a ―ヤ―。 b ―ヤ。 c ―ニ…

磯部佳宏(2004.2)古代日本語の疑問表現(上):要説明疑問表現の場合

磯部佳宏(2004.2)「古代日本語の疑問表現(上):要説明疑問表現の場合」『山口大学文学会志』54. 要点 古代語の要説明疑問文についての、著者のこれまでの研究の整理。 形式に、以下のものがある。 a Wh(…)カ― b Wh(…)カ。 c Wh―ニカ―。 d Wh―ニカ。 …

野沢勝夫(1993.4)妙一記念館本仮名書き法華経 小考:その成立時代を中心として

野沢勝夫(1993.4)「妙一記念館本仮名書き法華経 小考:その成立時代を中心として」『妙一記念館本仮名書き法華経 研究編』霊友会. 要点 以下の8点の比較により、妙一本が足利本に先んずるものであることを主張する。足利本は1330写の識語を持つが、妙一本…

高橋敬一(1991.3)『宇治拾遺物語』における助動詞「むず」の用法

高橋敬一(1991.3)「『宇治拾遺物語』における助動詞「むず」の用法」『活水日文』22. 要点 宇治拾遺物語におけるムズ・ムの異なり、 ムズには終止形終止の例が少なく(しかも「~ようとする」の意に偏り、テムズ・ナムズのみである)、ムには多い。 ムズに…

菅原範夫(1989.12)栄花物語の口語的一側面:連体形・巳然形終止などから

菅原範夫(1989.12)「栄花物語の口語的一側面:連体形・巳然形終止などから」『高知大国文』20. 要点 栄花物語には以下のような口語的(中世的)要素が認められる。 地の文のハベリの使用:御おぼえも日頃におとりにけりとぞ聞こえ侍し。 筆録者が読者に対…

大坪併治(1969.6)提示語法について:訓点資料と今昔物語とを中心に

大坪併治(1969.6)「提示語法について:訓点資料と今昔物語とを中心に」『佐伯博士古稀記念国語学論集』表現社. 要点 提示語法(「文中のある語を無格のままで提示し、これを代名詞で受けて特定の格を与える形式」)は、訓点資料に幅広く認められ、 和漢混…

中川祐治(2004.3)「コソ」「ゾ」による係り結びと交替する副詞「マコトニ」について:原拠本『平家物語』と『天草版平家物語』の比較を手がかりに

中川祐治(2004.3)「「コソ」「ゾ」による係り結びと交替する副詞「マコトニ」について:原拠本『平家物語』と『天草版平家物語』の比較を手がかりに」『文学・語学』178. 要点 大野(1993)の「副詞表現の発達が係り結びの衰退の要因となった」という指摘…

矢毛達之(1999.12)中世前期における「文相当句+ナレバ・ナレド(モ)」形式

矢毛達之(1999.12)「中世前期における「文相当句+ナレバ・ナレド(モ)」形式」『語文研究』88. 要点 中世前期特有の語法に、「文相当句+ナレバ・ナレドモ」があり、 この盃をば先少将にとらせたけれども、親より先にはよものみ給はじなれば、重盛まつ取…

室井努(2006.1)今昔物語集の人数表現について:数量詞転移の文体差と用法および数量詞遊離構文に関して

室井努(2006.1)「今昔物語集の人数表現について:数量詞転移の文体差と用法および数量詞遊離構文に関して」『日本語の研究』2(1). 要点 今昔の数量詞転移・数量詞遊離について、以下の2点を明らかにする A 数詞単独:三人共ニ一家ニ住シテ世ヲ過ス。(10-2…

近藤要司(2022.3)「活用語カナ」型詠嘆表現の衰退について

近藤要司(2022.3)「「活用語カナ」型詠嘆表現の衰退について」『神戸親和女子大学言語文化研究』16. 要点 活用語+終助詞カナ(活用語カナ)の衰退の要因を以下の点に求める 中古のカナは上代の「~も~かな」を引き継ぎ、話者の内面の情動そのものを述べ…

鈴木泰(2017.11)古典日本語における認識的条件文

鈴木泰(2017.11)「古典日本語における認識的条件文」有田節子(編)『日本語条件文の諸相:地理的変異と歴史的変遷』くろしお出版 要点 認識的条件文の前件の以下の3分類に基づき、今昔の条件文を概観する A 発話時の時点で成立・非成立が決定している(昨…

小田勝(2006)不十分終止の句(5,6)句の並立、句の素材化

小田勝(2006)「不十分終止の句」『古代語構文の研究』おうふう 要点 挿入句・提示句・成分の句化以外の不十分終止の句について概観し、不十分終止句の全体像を捉える(5節) 並列の関係に立つ不十分終止の句がある 返しせねば情けなし、えせざらむ人は、は…

小田勝(2006)不十分終止の句(4)挿入句と成分の句化

小田勝(2006)「不十分終止の句」『古代語構文の研究』おうふう 要点 以下の特殊性について考えるために、挿入句の構文的職能について考える 白き衣の萎えたると見ゆる着て、掻練の張綿なるべし、腰よりしもに引きかけて、側みてあれば、顔は見えず(落窪)…

小田勝(2006)不十分終止の句(3)提示句の諸相

小田勝(2006)「不十分終止の句」『古代語構文の研究』おうふう 要点 「提示句」とその連続について、a の変形に b, cがあることを指摘する(第3節) a 此ノ牛、片山ニ―ノ石ノ穴有リ、其ノ穴ニ入ル。(典型的な提示句) b 此ノ牛、片山ニ―ノ石ノ穴有リ、入…

小田勝(2006)不十分終止の句(1,2)提示句

小田勝(2006)「不十分終止の句」『古代語構文の研究』おうふう 要点 形態上独立した句をすべて「挿入句(はさみこみ)」で説明するのは難しい(問題の所在) 挿入句とは異なるタイプのものとして、「提示句」が存在することを示す(第2節 提示句) 挿入句…

山田潔(2001.9)助動詞「らう」とその複合辞(2)複合助動詞「つらむ」の用法に関する一考察

山田潔(2001.9)「複合助動詞「つらむ」の用法に関する一考察」『玉塵抄の語法』清文堂出版、初出1993 要点 平家のツラムについて、キ・ツの問題を踏まえながら考える キ・ツは意味的に近似し、キは現在との交渉を持たない過去を、ツは何らかの意味で交渉を…

山田潔(2001.9)助動詞「らう」とその複合辞(1)平家物語における助動詞「つ」の文章論的考察:助動詞「き」との比較を通して

山田潔(2001.9)「平家物語における助動詞「つ」の文章論的考察:助動詞「き」との比較を通して」『玉塵抄の語法』清文堂出版、初出1986 これのつづき hjl.hatenablog.com 要点 ツの完了・強意以外の意味用法の分析を、(ヌではなく)キと比較する形で行う …

月本雅幸(1992.11)院政期の訓点資料における助動詞

月本雅幸(1992.11)「院政期の訓点資料における助動詞」『国語と国文学』69(11) 要点 平安初期訓点資料に比して院政期訓点資料が活用されることは少ないが、価値が低いとは言い切れない 当時の口語を含む部分がありそうな一方で、移点などによる年代的重層…

坂詰力治(2002.3)中世における助動詞の接続用法に関する一考察:終止形接続の助動詞「まじ」「らん」「べし」を中心に

坂詰力治(2002.3)「中世における助動詞の接続用法に関する一考察:終止形接続の助動詞「まじ」「らん」「べし」を中心に」『文学論藻』76 要点 終止形連体形の統合が終止法以外の終止形にも及ぶことについて、特に室町におけるマジ・ラン・ベシを見る 室町…

鈴木裕史(1999.3)接続助詞「つつ」の素描:鎌倉時代末期成立『とはずがたり』の場合

鈴木裕史(1999.3)「接続助詞「つつ」の素描:鎌倉時代末期成立『とはずがたり』の場合」『文教大学国文』28 要点 中世におけるツツについて考える 新旧語法の交錯する、とはずがたりを対象とする hjl.hatenablog.com まず、ツツの本義については反復・継続…

山口明穂(1969.3)中世文語における接続助詞「とも」

山口明穂(1969.3)「中世文語における接続助詞「とも」」『国語と国文学』46(3) 要点 トモの接続の様相を通して、文語行為について考えたい 詠歌大概註で宗祇は「ぬるとも」を「ぬるゝとも」に置き換えて説明する 当たり前のことのようであるが、宗祇自身の…

山口明穂(1972.3)中世文語における「つつ」についての問題:意味認識の過程

山口明穂(1972.3)「中世文語における「つつ」についての問題:意味認識の過程」『国文白百合』3 要点 ツツは秘伝書において以下のように記述され、あゆひ抄などでは認識されている「一つの動作の反復」についての説明がない 程経之心(動作の経過)/二事…

佐藤宣男(1974.10)平安、院政・鎌倉期における終助詞「なむ」:散文中の例を中心にして

佐藤宣男(1974.10)「平安、院政・鎌倉期における終助詞「なむ」:散文中の例を中心にして」『藤女子大学国文学雑誌』16 要点 終助詞ナムは中世以降に古語化したとされるが、実態について触れられたことはない まず平安期において見ると、 和歌の例が多いが…

山本真吾(1994.5)延慶本平家物語に於ける古代語の用法について:「侍り」「めり」「まほし」を軸として

山本真吾(1994.5)「延慶本平家物語に於ける古代語の用法について:「侍り」「めり」「まほし」を軸として」水原一編『延慶本平家物語考証3』新典社 要点 延慶本における「新しい語法」が注目されがちだが、「古い語法がどうなっているか」の検討も併せて行…

山本真吾(2010.12)平家物語諸本と中世語:延慶本の言語年代をめぐって

山本真吾(2010.12)「平家物語諸本と中世語:延慶本の言語年代をめぐって」『国文論叢(神戸大学)』43 要点 延慶本平家は鎌倉時代語資料とはされるが、転写は応永まで下るので、当時の言語現象を含む可能性がある このことを踏まえて、延慶本の資料性を、…

山口堯二(2000.3)『天草版平家物語』の「まじい」と「まい」:原文との対照から見た打消推量の助動詞統合の歩み

山口堯二(2000.3)「『天草版平家物語』の「まじい」と「まい」:原文との対照から見た打消推量の助動詞統合の歩み」『京都語文』5 要点 原拠本平家と天草平家の対照と通して、打消推量の助動詞の流れを考える 対照を行うと、次の通り 原拠のマジの訳語とし…

大塚光信(1962.9)助動詞マイの成立について

大塚光信(1962.9)「助動詞マイの成立について」『国語学』50 要点 口語法別記ではマイの成立に以下の過程を想定する 甲:終止形マジがマイとなり、そのマイが連体形マジキの領域を侵した 乙:終止形マジが連体形マジキの領域を侵し、終止・連体形両用とな…

渡辺由貴(2011.3)中世における文末表現「と思ふ」と「と存ず」

渡辺由貴(2011.3)「中世における文末表現「と思ふ」と「と存ず」」『早稲田日本語研究』20 前提 中世における文末表現の「と思う」「と存ず」の位置付けを、以下2点から考えたい 話し手と聞き手の関係性 モダリティとしての表現性 分析1 身分の関係を見る…