黒木邦彦(2012.10)「中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って」丹羽一彌(編)『日本語はどのような膠着語か:用言複合体の研究』笠間書院
要点
- ツ・ヌの承接順の共通点と異なりから、ヌと共通するツ(ツ1)とは、異なるツ(ツ2)の存在を指摘する
前提
- -ツ- -ヌ-(本稿では派生接尾辞として規定、以下ツ・ヌ)の使い分けの原則は以下の通り
- 能動詞語幹(動作主に主格を与える動詞語幹)にはツ
- 所動詞語幹(その他の動詞語幹)にはヌ
- 形式的特徴は以下のようにまとめられ、
- a ツ・ヌに後接できる/できない接尾辞はほぼ一致し、
- b いくつかの点で異なり、
- c 1語中で共起する場合はツがヌに先行する
- aより、動詞接尾辞同士が承接する際の順位(承接順位)がほぼ等しいと考えられるが、
- 異なる点もあること(b)、排他的でないこと(c)をどのように考えたらよいか
ツ・ヌの性質
- 共通する点、異なる点があるのはなぜか、を考えるために、動詞接尾辞・動詞語幹のそれぞれから考える
- 動詞接尾辞において、表1より、
- ツ・ヌはDよりも低く、Aよりも高い
- 後接可能なものはバ・ド・ヲ、できないものはテと、一致する
- 動詞語幹において、表2より、
- ツは能動詞語幹だけでなく所動詞語幹にも後接できる(所動ツ)
- ツは第二次動詞語幹メリ・終止ナリに後接できる(証拠ツ)が、ヌは不可
- ツは第二次動詞語幹タリ・ザリに後接できる(完了ツ・否定ツ)が、ヌは稀
- これをどう考えるか
- 所動ツ、証拠ツ、完了・否定ツの性質を考える
異なるツ
- 所動ツについては以下の特徴がある
- 常に -(i)tu- で実現し、ラム、-(r)u, -(r)e, -(u)のみを後接させる(ベシ・マジ・メリ・終止ナリ・トモは後接しない)
- 証拠ツは、
- 常に -(i)tu- で実現し、 -(r)u, -(r)e, -(u)のみを後接させる(ラム・ベシ・マジ・メリ・終止ナリ・トモは後接しない)
- 所動ツとはラムを後接するかどうかしか違わないが、これはツの問題ではなく、メリ・ナリの問題である
- 完了ツ・否定ツの形式的特徴も、所動ツのそれと一致する
- 以上より、これら3つのツをツ2、その他のツをツ1と呼んで区別する。ツ1とツ2は別の動詞接尾辞である
- いと良う謀りつ(1)べかりつ(2)るものを(うつほ)
- ヌとツ2は承接順が異なるので、ツ・ヌが1語中で共起しても問題ない
- この2種の現象について、
- 橋本進吉は例外的なツとして解釈し、
- 竹内美智子は2種のツを認めた上で、「新たな用法が加わった」ものと解釈する
- ただし、竹内の主張はツ1とツ2の区別を明確に主張できるものではない
雑記
- この本笠間だったんだ(なんか意外)