坂口至(1990.3)噺本に見る近世後期上方語の諸相
坂口至(1990.3)「噺本に見る近世後期上方語の諸相」『文学部論叢(熊本大学)』31
前提
- 後期上方語の資料としてあまり活用されてこなかった後期噺本の資料性を考えたい
活用
- 二段活用の一段化:自立語では洒落本と同等で、付属語はやや少ない
- ラ行下二段の四段化:
- サシャルル・メサルルはほぼ四段、クダサルルも洒落本と同等、ナサルルは洒落本と比べてかなり低い
- 四段ナサルルの発話者は女性に偏っており、洒落本の四段ナサルル率の高さは女性の言葉に支えられているといってもよい
- すなわち、近世後期口語の全体像はむしろ噺本の方が実態に近いのではないか
- サ行下二段の四段化(合わする→合わす)
- 噺本は洒落本の四段化率を上回る
- 洒落本では男性は四段化しないが、噺本はしている
- ナ変の四段化:ナ変2例、四段1例
- サ行イ音便:「さす」に限られる
- 命令形語尾のヨ・イ:イ率は中世末より低く、これは武士などの多様な人物が登場することと関係する
- 可能動詞:数例あるが、四段ルルの方が多い
助動詞
- ウ・ヨウ
- 上二段(つけふ)、三音節以上下二段(投げう)、サ変(せう)、助動詞(暮らされう)など、ヨウを分出しないことが多く、
- 前期とほとんど変わらないのではないか
- ヌ・ン:ンの勢力は強くなく、後続子音が軟口蓋音kの場合に、ン(カ)が出やすく、特に女性に顕著
条件表現
- ナラ・タラ:ナラ・タラがナラバ・タラバに比べて圧倒的に多い
- ホドニ・ニヨッテ:ホドニは全て後件が命令・意志・当為で、ニヨッテと分担がある
- ドモ・ケレドモ:噺本ではドモが優勢だが、形容詞にドモが多いのは、ヨ・ケレドモで安定しやすかったためか