小林隆(2004)「動詞活用の歴史:言語体系の変遷」『方言学的日本語史の方法』ひつじ書房 (小林隆1996「動詞活用におけるラ行五段化傾向の地理的分布」『東北大学文学部研究年報』45)
要点
- オキル・ミル・アケル・ネル・スル・クル×否定・使役・意志・過去・命令の30項目の五段化傾向を集計すると、
- ラ行五段化は周辺部で発達し、中心部では未発達(逆周圏)、その間は連続的
- 使役のラ五化は、受身のオキラレルからの同化によることが、サ変(受身シラレル→使役シラセル)の分布から分かる
- 意志形は、オキヨーとオキローの分布が連続的であり、前者が後者の基盤となったことが分かる
- ただし、九州以南はオキヨーの分布が乏しく、ローの発生はカクロー(<ラム)との関連に求められるか(推量オキルロー→意志オキロー)
- 命令形はロ・レの分布が連続的で、アケレがアケロを母体に成立したと考える
- 命令形オキロと意志形オキロ(ー)は相補的に分布するが、これは両者の同音衝突を避けた結果である
- 否定形は上述のものとは異なり、形態的基盤が見当たらない
- 西日本に偏ることから考えると、否定のンであることを明示するために、ラの挿入が行われたのではないか
- 「ナイに比較してンは音としての独立性が弱いために、ラを挿入することによって形態を安定させようとしたのではないか」
- 琉球のヌの場合に、ラヌとならないことからも支持される
- 逆に東日本に見られないのは、本来のラ五がハシンナイのように撥音便化してしまうため
- 以上、ラ五化は基本的に活用の単純化を目指した群化であるが、活用形による差異には個別の要因の推定が必要である
- 語ごとに見ると、オキル・ミル・ネルが進み、アケルがやや遅れ、スル・クルが最も遅れている
- すなわち、一段化の先行が基本的に不可欠である
- GAJ以外に拡大すると、
- 群馬にキラットがあり、これはカカット(<カカズト)のような促音化をラの挿入で補ったもの
- 岩手・栃木・奄美・沖縄にオキラバ・クラバ・スラバがある、ミバ・ネバの短さを嫌ったものか
- 連用形命令にラ五が見られる(オキリ・アケリ)地域もある
- ワ行五段動詞のラ語化が、青森を中心に見られる
雑記
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