ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

彦坂佳宣(2020.3)一・二段活用のラ行五段化における使役形の動向

彦坂佳宣(2020.3)「一・二段活用のラ行五段化における使役形の動向」『国語語彙史の研究』39

要点

  • 「他の活用とやや異なる面のある」使役形の五段化について考える
    • 個別的要因(九州南部の音変化の激しさ、東北のレバの優勢さ、新潟のローの誘引など)の関与も考えるべきであるが、使役形はどうであろうか?
  • 使役形の五段化(オキラセル・アケラセル・コラセル)の分布は、
    • 寝る>起きる>来る>開ける で、ほぼ他の五段化に準ずる(ただし、カ変が広い)
    • が、関東・中部の一部・四国(意志しか五段化しない)・九州北側など、分布が異なる地域もある
    • 伝統的な使役形は、近畿~中四国でサス、東部でサセル、九州でサスル
    • 小林(2004)は受身からの誘引とするが、コラレル>コラセルが特定地域でしか起こらない理由が説明できない
  • ここで、可能の分布との相関に注目すると、
    • 可能のラレル類は使役のラ五と重なる
    • 重ならない地域は、
      • 例えば群馬はスルコトガデキルも混ざる*1、近畿~中国四国北部などはキレルが混在するために同化が進まなかった
        • また、使役形が五段活用であるのも同化しなかった要因か
      • 可能でラレルがないのに使役はラ五化する高知・長野・岐阜あたりでは、禁止にラレンが用いられるので、それに誘引されたのではないか
      • 九州は、北で可能がラルル、南で~ガナルをとることが、北の使役がラ五をとり、南は取らないことと並行する
  • まとめ、
    • 使役ラ五化も、動詞のラ五化と同様にラ行五段に引かれたものではあるが、可能・禁止などのラレルに引かれたもの
    • 一・ニ段のラ五も規範性のゆるみと地域固有の誘発条件によって起こったもので、他地域に伝播力を持つものとは考えにくい

要点

  • 誰かスイッチ売ってや

*1:GAJに出てくるコトガデキル類は質問文に引っ張られただけでは、と思う(その地域で「言える」というだけではないかという話)。あと、なんで可能と使役が対応付くんだろ。