ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

鶴橋俊宏(2013.1)人情本の推量表現(1)文政期人情本における推量表現

鶴橋俊宏(2013.1)人情本の推量表現(1)「文政期人情本における推量表現」『近世語推量表現の研究』清文堂出版

初出2013『言語文化研究』11

要点

  • 推量表現史を見つつ初期人情本の資料性についても考える
  • 特にダロウ・ノダロウについてここまで分かったこと
    • 洒落本のノダロウは「旧情報ノハ新情報ノダロウ」であり、疑問文の場合はナゼAノダロウがなく、ダロウに偏る
    • ただ、分担の理由と成立過程については分からないことが多い
  • 調査から分かること*1
    • 全体としてダロウよりデアロウが多く、谷峨にも見られたデアロウへの回帰を引き継ぐか
    • 位相上、富裕町人に上方的な物言い(ここではデアロウ)をさせるのは後の人情本にも共通で、ダロウはおおよそ下層町人に現れる
    • 用法上は洒落本の延長で、ウはアルや状態性の語が多く、やはり意志・勧誘と紛れない語に残る。過去推量もまだタダロウがない
    • 原因を推量する旧情報ノダロウの例が見られる。「「Aノダロウ」の形式は文政からということになる」
      • 前世につくりし罪の報い来て、はかなき別のなるのであらふ(今様操文庫)
  • 資料性について、
    • 「目的と有効性を確認しながら考察をすれば消して役に立たないとは言えない」
    • 楚満人時代の春水人情本は門人の代作であり、明烏後正夢は春水、鯉丈や近松半二、駅亭駒人などの合作であり、狂言作者のものであれば文語体になるのは当然であるし、4,5編の例は春水ではなく大坂出の駒人の言語ということになる

雑記

今日こそは辞書登録しようと思う用語第一位、「却癈忘記」(とうとうしました!)

*1:清談峰初花、明烏後正夢、松の操物語、玉散袖、今様操文庫の5作品で、このうち松の~と玉散袖に翻刻があることを知る
ci.nii.ac.jp ci.nii.ac.jp ci.nii.ac.jp あとこれも ci.nii.ac.jp