ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

幸松英恵(2020.3)事情を表わさないノダはどこから来たのか:近世後期資料に見るノダ系表現の様相

幸松英恵(2020.3)「事情を表わさないノダはどこから来たのか:近世後期資料に見るノダ系表現の様相」『東京外国語大学国際日本学研究』プレ創刊号.

要点

  • ノダ文研究の現状の前提として、
    • ノダ文の典型は〈事情説明〉であり、この機能は〈準体助詞ノ+断定辞ダ〉という組成によって文を《主題―解説》構造に持ち込むことによる。
    • 元の中心は換言用法で、ここから、隔たる2つの事態を結ぶ原因・理由用法に広がったと考えられる。
  • 一方、ノダの組成からは、「事情を表わさないノダ」(「いえいえ、いいんです」)が説明し難い。用法間の関係の整理のために、近世語における「事情を表さないノダ」の様相を明らかにしたい。
  • 疑問文の場合、江戸語ではノダによる疑問詞疑問文率が高く、ノ+終助詞には疑問詞疑問文は現れない。
  • 平叙文の場合、
    • ノダ・ノジャはすべて事情説明と言える例。
      • 金「そりやあ其筈でございやす 彼方の内証も貴君の働きでどのくらゐ金もうけを仕てゐるか知れやあ仕ません 惣「なに自己の働きといふわけじやあねへああ [どん〳〵拍子に金のまうかつた]のは[全あすこの家の福のある]のだ」(江戸・人「春色江戸紫」)
    • 一方、ノサには事情とは考えられない、題述構造をとらない例が多く現れる。
      • 話し手の評価判断:よね ぐつと干て「藤さん湯呑じやあ お否かへ 藤「随分いいのさ 。よね「よかあおあがりなさあ (江戸・人「春色梅児与美」)
      • 話し手の知識(の披瀝):佐「旦那この間ね。あなたがお出なすつたのを見とどけまして。ちよつぴり趣向してめへりましたら。もうあとのお祭りで。大きに鼻をあきましたのさ 」金「ははあさうだつたか。そいつあ残念だつけの。(江戸・人「仮名文章娘節用」)
    • 以下の根拠により、ノダ・ノジャと比して、ノサは終助詞的としての機能が強いと考える。
      • 命題述語の品詞が、ノダ・ノジャが動詞に偏るのに対し、ノサは形容詞・名詞述語の例も現れる。
      • 既に名詞的な要素にノサが付く例や、ノダ文に付く例(~のでございますのさ)がある。
      • 疑問詞疑問文に使われる例がない。
      • 連体節的意識の低い、敬体が含まれる(ますのさ・やすのさ)例がしばしば見られる。
  • このノサが消滅し、用法がノダに集約していったのではないか。
    • これは、サの消滅と、ダ・デスへの集約(長崎1998)と軌を一にするもの。
  • 事情を表すノダと事情を表さないノダは元来別形式で、それが一形式に集約されたと考えれば、現代語にこの2用法が併存する理由の説明がつく。

雑記

  • 少しずつインプットの時間を取り戻していきたい(主にゼルダから)