ココスの「焼きしめる」
はじめに
- 久々にココスに行ってビーフハンバーグステーキを食べようと思ったら、「お召し上がり方」から「焼きしめる」が消えていた
やきしめるってなに?肉に絞め技かければいいの? pic.twitter.com/TRAGVkRFz2
— まりこ (@mazueriatu) 2013年10月27日
↑かつてはこうだったはず
- 耳馴染みのない言葉のようで、次のような記事が散見する
そのうち、特に次の記述が注目される。 ポップだけの問題ではなく、店員が口頭でも用いるよう統一されていたことがここから分かる。
暖かい店内で暖かいお料理を頂いて人心地ついた時、
おや?っと思う言葉が耳に入ってきました。
近くのテーブルにハンバーグを運んできた店員さんが、
「よくヤキシメテお召し上がりください」と言っていました。
「ヤキシメテ」って、方言!?
旦那も「ヤキシメテ」に引っ掛かったようで、
「今変なこと言ってなかった?」と怪訝そうな顔で聞いてきました。
私も「何だろう?」なんて言っていたら
テーブルの端のポップに、衝撃の文章が!!
複合形式としての「~締める」「~締め」
毎度毎度ココスに来ては「今日も焼きしめるぞ~」と思っていたが、こういう形の別れになるとは思っていなかった
というわけで、日本国語大辞典(第2版)に立項のある「~締める(しめる・ちめる)」を見る*1
- いれ‐し・める 【入締】〔他マ下一〕十分いれる。たっぷり酒を飲む。
- かみ‐し・める 【噛締】(1)力を入れてかむ。強くかむ。また、物を強くかんで、声などを洩らすまいとこらえる。
- くい‐し・める[くひ‥] 【食締】〔他マ下一〕くひし・む〔他マ下二〕
- (1)「くいしばる(食縛)(1)」に同じ。
- (2)十分に飲み食いする。たらふく食う。
- (3)おさえて出ないようにする。こらえる。
- だき‐し・める 【抱締】〔他マ下一〕だきし・む〔他マ下二〕しっかり抱いてしめつける。かたく抱いて離さない。
- たたき‐し・める 【叩締】〔他マ下一〕ひどくなぐってこらしめる。ぶちのめす。のす。
- にぎり‐し・める 【握締】〔他マ下一〕にぎりし・む〔他マ下二〕 握った手に力を入れてしめつける。しっかりとつかまえる。かたく握る。
- はき‐し・める 【履締・穿締】〔他マ下一〕はきし・む〔他マ下二〕しっかりとはく。
- ひき‐し・める 【引締】〔他マ下一〕ひきし・む〔他マ下二〕
- (1)引っぱってしめる。強くしめる。
- (2)抱き締める。
- ぶっ‐し・める 【打締】〔他マ下一〕
- (1)「ぶっちめる(打締)(1)」に同じ。
- (2)「ぶっちめる(打締)(2)」に同じ。
- ふみ‐し・める 【踏締】〔他マ下一〕ふみし・む〔他マ下二〕力を入れてしっかりと踏む。踏んで固める。
「ぶっちめる」に同じとあるので、音変化の「~ちめる」も見ておく(例は省略)
- ぶっ‐ち・める 【打締】〔他マ下一〕
- (1)たたきのめす。ぶちのめす。また、取り押えてしめつける。とっちめる。ぶっしめる。
- (2)(「ぶっ」は接頭語)強引に情交する。ぶっしめる。
- (3)評判をとる。喝采を博す。 (チメ)てくれべヱ」
- かっ‐ち・める 【掻締】〔他マ下一〕
- (「かっ」は接頭語)物をきつくしめる。また、気をひきしめる。
- しっ‐ち・める 【─締】〔他マ下一〕
- (「しっ」は接頭語)強く締める。
- ひっ‐ち・める 【引締】〔他マ下一〕(「ひきしめる(引締)」の変化した語)
- (1)強くしめる。
- (2)全体をまとめる。合計する。また、要約する。
さらに、名詞化した「~締め(しめ・じめ)」を見ておく(例は省略、適当に抜粋)
- あぶら‐しめ【油締・油搾】〔名〕(「あぶらじめ」とも)(1)油をしぼること。また、その職人。
- あら‐じめ 【荒締】〔名〕加工材料の金属塊や板金などを、おおまかな形に、大鎚(おおづち)などで鍛え上げること。鍛造作業のうちでの最初の工程。
- いけ‐しめ【生締・活締】〔名〕(「いけじめ」とも)
- おお‐しめ[おほ‥]【大締】 〔名〕物事の決着を祝って大勢でいっしょに手を打つこと。
- くらい‐じめ[くらひ‥]【食締】〔名〕生活に困ること。また、その者。
- そう‐じめ【総締】〔名〕(「そうしめ」とも)(1)全体をまとめて計算すること。内訳を全部まとめた計算。総計。合計。(2)全体をとりまとめること。また、その人。(3)手じめをいう。
- とこ‐しめ【床締】〔名〕水田の床に、水漏れを防ぐため粘土などを入れること。
- とり‐しめ【取締】〔名〕(「とりじめ」とも)(1)(多く「とりしめ(も)なし」の形で用いられる)しまり。まとまり。とりとめ。とらえどころ。
- の‐じめ【野締】〔名〕野外で鳥などを締め殺すこと。また、生簀(いけす)からではなく、直接川や海からとった魚の鮮度が落ちるのを防ぐために、水揚げしたらすぐにその場で殺すこと。また、その魚。
- のど‐じめ【喉締】〔名〕喉をしめ上げること。飲み食いさせないこと。特に酒を飲ませないこと。
- みず‐しめ[みづ‥]【水締】〔名〕掘り返したり埋め立てた土地などに水をまいて固めること。
やき‐しめ【焼締】〔名〕
「しめる」の持つ意味*2で、この話と関係のあるものは、
- 強く圧を加えた状態にする
- 「固定する」ことが全面に出れば、紐状のもので、結んで固定する(紐をしめる)へ
- 「強く固定する」ことが前景化して、体の一部などを、強く挟み付ける(首をしめる)や、さらに家畜などを殺す(釣ってすぐに締める)へ
- 終わらせる(会を締める)*3
- 強く圧を加えた状態にする
ここから、複合動詞後項となって「しっかりと~する」とか「~し終える」*4のような意に抽象化される一群
- いれしめる、くいしめる(2)、はきしめる、など
- にぎりしめる、だきしめる、ふみしめるあたりは、何かが締まるので、かなり「締める」意を残す
- これは「しっかり~して締める」のように一般化できる、特に「踏みしめる」は「締まった状態にする」意もあり(土を踏みしめる)
「焼きしめる」に戻って
- 「焼きしめる」もこのあたりから類推的にできた(しっかりと焼いて、肉が締まった状態にする)複合動詞と考えるか、もしくは
- 類例に(ご飯を)「炊きしめる」もある
- 熱を逃さず、ギュッと炊きしめる(東芝 RC-18GX・RC-10GX)
- 炊きあげ直後に1.05気圧まで減圧し、約280度の高温炊きあげにより、ごはん粒を炊きしめ、「ふっくらもちもちなのに、一粒ひと粒がしっかりおいしい」(タイガー JPX-A1)
- これも「しっかり炊いて、ご飯が締まった状態にする」意で、東芝の「ギュッと」がわかりやすい
- ハイエンド炊飯器で炊きしめたお米、おいしそう