釘貫亨(2018.3)奈良時代語における話者顧望マクホシをめぐる通時的諸相
釘貫亨(2018.3)「奈良時代語における話者顧望マクホシをめぐる通時的諸相」『国語語彙史の研究」37
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要点
願望をどう表示するか
- 語彙的表示法:願望を意味する語を用いるもの、欲しい、望む
- 文法的表示法:文法形式の組み合わせによるもの、あればなあ
- 「もこそ」が直接危惧とつながらないのと同じ
- 上代ではナとネがこれに当たる
- 文法的表示の諸形式
- ナ:見つつ偲はな(54)、拾ひて行かな(3614)、
- ネ:示さね(725)、汝が名告らさね(800)
- 三人称ではナモ・ナム:情あらなも(18)、鶯は…渡らなむ(4495)
- テシカ(テシカモ):得てしか(806)、成りてしか(4433)
- モガ(モガモ):妻もが(1745)、長くもがも(3245)
- これらは全て句末に位置し、従属節・連体修飾節内に介入しない
- 語彙的表示
- マクホシ
- 一人称話者の願望表示で、句末用法は1/19例のみ
- 見まくほしけど止まず行けば(207)
- マクホリ
- 人称制限なし、句末に多め
- 聞く人の視まくほりする…(1062)
- ガホシ
- 人称制限なし、句末が多い
- 見がほし(4112)、ありがほし(1059)
- マクホシ
マクホシの成立経緯について
- 「意志動詞+マク+感情形容詞」構文を見る
- 掛けまくもかしこし・~まく惜しなどの類型的表現に位置しながら、そこから分離して成立したと考える
- これらは「三人称動作のマク+一人称話者の感情」か「一人称動作マク+一人称話者の感情」に分類され、マクホシは後者と共通
- ただし、マクシホシ、マクノホシなど助詞が介入する場合あり、形態上は切れていたのではないか*1
- 文法的表示が句末、マクホシが従属節等に位置するのは「知的分析を経て構文構造に埋め込まれた」表現であったからとする
- 掛けまくもかしこし・~まく惜しなどの類型的表現に位置しながら、そこから分離して成立したと考える
マクホシとマホシ
- 平安のマホシは、出現位置はマクホシの分布と共通するが、人称制限がないという点においては異なる
- 後者に関しては、語りにおける感情形容詞の人称制限の解除と関連する
*1:日国でも「また、「美麻久能富之伎(みマクノホシキ)」〔二〇・四四四九〕の形もあり、「まくほし」を一語と見るかどうかには問題があるが、」とある