ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

野村剛史(1993.2)上代語のノとガについて(上)

野村剛史(1993.2)「上代語のノとガについて(上)」『国語国文』62(2)

要点

  • 標記の問題、まず上接語の差異について、ノの分布がより一般的であるのに対し、ガの分布は「一人称、二人称の指示代名詞を中心に、三人称指示詞、固有名詞に広がっている」
    • ワ・オノ・ナ・シ・タにはガが、コ・ソにはノがつく
    • 二人称代用形式(妹、君)はガや近親者、人物の固有名もガに偏る
    • これが尊卑やウチソト説の根拠にもなるが、本来的にはそういった要因にはよらない(あくまでも結果的にこうなったと考える)
  • 文法機能について、ノ・ガのパターンを整理すると、
    • Nノ・ガN(我が道)
    • Nノ・ガ連体形N(我が行く道)、Nノ・ガ連体形(君が来まさぬ)
    • カ・ソ・ヤと共起
    • ク語法内部、Nノ・ガVバ(我が行かば・行けば)、Nノ・ガ~ト(引用型副詞句)
    • Nノ・ガ連用成分(人の知るべく)
    • など、これをもって連体用法を基本とする考え方があるが、
  • 連体基本説には従い難く、むしろノ・ガは「元々ある種の連用用法を持っていたのではないか」
    • 理由1 文献上の証拠がなく、記紀歌謡にも主格用法があることを説明できない
    • 理由2 条件句内部での使用が多いことが特に説明できない
    • ここで、主格ノ・ガの位置について、係助詞との関係性から考える
      • ハとカは「ハ~カ」、無助詞とカは「無助詞~カ」、ノ・ガとカは「ノ・ガ~カ」の順であり、「~ハ~カ~ノ・ガ~連体形」という対立的な位置関係を占め合う
      • また、「連体形カ・カモ」はハ・無助詞と呼応するが、少数ながら「ノ・ガ~連体形カモ」も存する
      • これは、連体形の存在が直ちに主格ノ・ガの出現の条件とはならず、「ノ・ガは強く一体的な句の内部に出現するという性格を持つ」ことを意味する
  • 結局のところ、ノ・ガは原始的な修飾を行う助詞であった
    • 未分化で「連用も連体もない」助詞で、未分化であるからこそ「言語の主要な場」でもあった(消極的性質)
    • また、原始的であることによって、被修飾語と強く一体化するという積極的性質もあった
    • そのため、連用の場合であっても、ハが行うような述語との対立は見せない

雑記