新田哲夫(2018.7)「石川県白峰方言と日本語史:推量意志の「うず」を中心に」『日本語学』37-7
要点
- 白峰方言における、日本語史で問題となる文法的特徴について
- 意志推量のオ段拗音
- 意志推量のウズ
白峰方言に関して
石川県南部の白峰、方言的特徴概ね西日本的で、石川県の加賀・能登や福井県東部の奥越方言と共通
- 否定の接辞ン
- 存在動詞のオル
- 動詞否定過去の接辞ナンダ
- ハ行四段動詞のウ音便形、形容詞ク活用ウ音便形
- 判定辞のジャ・ヤ
- 理由の接続助詞サカイ
それとは異なる古語的特徴として、
- 生き物につく接尾辞メ(クマメ、ハットメ、ドンボメ)
- 形容詞語幹に長母音(ターキャ・ターカカッタ、サービ・サーブカッタ)
- 特定の名詞の長母音・撥音(オーケ〈桶〉、ナーベ〈鍋〉、ソーレ〈橇〉、カンゲ〈影〉)
「ウ・ヨウ」とオ段拗音
- 変化過程に以下の3種
- 上一段・上二段:mi-u > mjuː > mjoː / oki-u > okjuː > okjoː
- juː > joː の変化諸説として
- 下二段の数が多く、上一段上二段が惹きつけられた
- 漢字音のCjuː Cjoː の共存が多く、動詞も同一傾向だった
- eu > joː が juː に音声的に近かった
- 白峰の場合、CiuとCeuがCjoːに合流
- juː > joː の変化諸説として
- 下一段・下二段・サ変:ake-u > akjoː / se-u > sjoː
- ヨウの独立:okjoː > oki- joː
- 諸説として、
- 居る・射るが早い
- 語幹末イ、エの母音だけからなるものは早い
- 二拍語は早い
- 語幹末母音エ(下二段)より、イ(上一・ニ段)の方が早い
- 白峰の場合、「射る」「強いる」にヨーがある
- 諸説として、
- 上一段・上二段:mi-u > mjuː > mjoː / oki-u > okjuː > okjoː
「ウズ」
- ウズ(ムトス>ムズ>ウズ)
- 明日ワ晴リョーズ、良カッタニャー。
- 白峰のウズは、
- ウズルがなく、「不変化助動詞」化している
- 話者の内省に「あとに続く場合に出やすい」というものがあり、中央語史研究における指摘と一致する→並列節の接続を担う
- 連体修飾、引用などの埋込、他のムードを加えることが不可能
- 「~たり~たり」に近い道を辿っている