ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

村上昭子(1976)『玉塵抄』『詩学大成抄』における四段動詞および上一段動詞「見る」に対応する下一(二)段動詞

村上昭子(1976)「『玉塵抄』『詩学大成抄』における四段動詞および上一段動詞「見る」に対応する下一(二)段動詞」『佐伯梅友博士喜寿記念国語学論集』表現社

要点

  • 下二段動詞が、尊敬・可能・受身の用法を持つこと
  • その「尊敬」のあり方の検証
  • 下二段動詞の発生にルル・ラルルが関わること

使用状況

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p.485

  • 特徴として、
    • 四段に対応するものがほとんど
    • タに続くものが多い
    • 連用形以外が見られるのは、書く・説く・読む・云う・見る のみ
    • 動作主に御~アリやシマス・サシマスが用いられているので「尊敬語であろうという見通しがなりたつ」(p.488)

「尊敬語であろうという見通し」の実証(2節)

  • 動作主による分類を行うと、明らかに尊敬と取れるもの
  • 宋朝ハ庚申ノ歳カラ天下ヲモテタソ
  • 一方、漠然とした動作主に対する「公尊敬」的なもの
    • 周ノ代ハ三代ノ学ヲ学セラレタソ
  • 可能と取れる例、受身と取れる例もあり

イエル・ヨメルについて

  • イエ・ヨメを助動詞リとして扱うのは、当代の使用状況から見ると変(3節)
  • 用例数は少なく(3例)、訓読文に用いられているものがうち2例
  • また、「読める」「云える」を二段活用の一段化として見ることはできない
    • 用例数の上で優勢で、当代の一段化の一般化から見るとおかしい
    • ヨムレ・イウルの例などがない

「尊敬」のあり方に関して(5・6節)

  • 下二段動詞は、以下の3点で(ラ)ルルに近い
    • 尊敬・可能・受身の用法がある
    • 公尊敬の用法がある
    • 対象を広くとり、敬度も近い
  • 以上から、下二段動詞の派生に(ラ)ルル説を採る
    • 成立諸説に関しては以下記事参照

hjl.hatenablog.com