ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

米田正人ほか(2019.9)鶴岡市方言における共通語の格助詞「に」にあたる用法:格助詞「サ」の用法を中心として(鶴岡の発展的調査から)

米田正人・佐藤亮ー・水野義道・佐藤和之・阿部貴人・津田智史(2019.9)「鶴岡市方言における共通語の格助詞「に」にあたる用法:格助詞「サ」の用法を中心として(鶴岡の発展的調査から)」『方言の研究 5』ひつじ書房

要点

  • 鶴岡のニの用法差・年層差に、以下の傾向が認められ、これは共通語化とは逆の方向性を示す
    • サ・無助詞の拡大
    • ニの現象
    • 新用法としてのデの拡大

前提

  • 鶴岡調査の「発展的調査」を企画し、方言の用法の世代差(年層差)を捉える
  • 共通語のニにあたる用法57項目を方言文に翻訳させる方法をとる

年層差

  • 全体として、ニの衰退と、サ・無助詞・その他の助詞の拡張傾向が窺える
  • 年層に関わらずサの使用が多いもの
    • 方向・到達点(どこサ)、授与・行為の対象(おまえサやる)、行為の目的・目標(娘を嫁サやる、仕事サ行く)
    • 1990年代では「行為の目的」は基本的に無助詞であったが、本データではサが優勢
  • 若くなるほどニが減少し、無助詞が増加するもの
    • 行為・選択(酒ニするか)、変化の結果・状況(大工ニなる)、副詞的用法(一緒ニ以降)、やや幅のある時刻・時期(何時頃ニ行ったら)
  • 若くなるほどニが減少し、サが増加するもの
    • 行為・選択(酒サするか)、変化の結果・状況(~色サ変わった)
  • 若くなるほどニが減少し、他の助詞が増加するもの
    • デ・カラ・トへ交替するものがある(後述)

変化の傾向

  • 方向、行為対象、目的・目標はサの使用率が高いが、これはいずれも方向性と移動性の範囲に含まれる
    • サは、「移動の目標」→「実際の移動」「前提としての移動」へと拡張し、方向性のみを表す範囲(例えば行為対象)へと拡張する(小林隆
  • 変化の結果・状況において、サの用法が拡張中であると捉えられる
    • なお、外往歴のある方がサの用法が拡張しやすいようである
  • データからは、サ以外にも無助詞へと拡張することが考えられるが、これが本当に「無助詞」であるかは慎重になるべき
    • ニが[i][e]として実現する庄内方言において、直前の語末音と融合して無助詞に見えることもあるため
  • 時刻:6時デ会う や、受身の相手:犬カラ追いかけられた も用法拡張の見られる項目である
  • 鶴岡方言は音声やアクセントにおいて共通語化を起こしているが、共通語ニにあたる用法は共通語化とは逆の方向に進んでいる

雑記

  • ちょっと前の話、近大退職の人、そら(そこにいたら)そうでは?という感想しかなかった