堀尾香代子(2013.3)「上代語にみるヤによる係り結びの異型」『北九州市立大学文学部紀要』82
要点
- 上代における正常でないヤの係り結びの例に関して
- 間投助詞ヤから係助詞ヤへの過渡的な姿として捉える
上代の助詞ヤ
- 係助詞・終助詞・間投助詞のヤが本来同一であったとする見解
- 野村(2001):「係助詞のヤは、間投助詞・終助詞のヤから発達したものではないかと思う」
- 佐伯(1958):「「や」にも、間投助詞でなく、係助詞に属するものがあるが、これも元来別なものではなく、間投助詞がもとで変わって行ったものだろうと考えられる」
- 山口(1990):「疑問表現には、…古代語の疑問の係助詞「や」のように、本来詠嘆を主とする形式(間投助詞)であったものが疑問形式としても用いられるようになったと推定されるものがあったりする」
係り結びの異型
- 特殊な結び*1
- ~ヤ~体言:見む人八誰(1968)、ここにありて筑紫也いづち(574)
- 述部の疑問詞が疑問文であることを決定しているので、呼びかけの「や」に近い
- 「元来疑問の意をもたないヤが疑問文へと入り込む先駆的な諸例」(p.19)
- ~ヤ~終止形:我は毛也安見児得たり(多利)(95)の例のみ、主述の間に間投助詞ヤが介入した例と解すべきもの
- なお、疑問として解しにくい「一人称+ヤ」は、間投助詞のヤに近い
- ~ヤ~助詞
- はたや:はた也はたかくして後にさぶしけむ可聞(762)
- 条件句+や:円方の湊の渚鳥波立て也 妻呼び立てて辺に近付く毛(1162)
- ~ヤ~体言:見む人八誰(1968)、ここにありて筑紫也いづち(574)
- 係の重複(複数の係助詞が同一の述語にかかる現象)
- 人なる我哉 なにすと可 一日一夜も 離り居て 嘆き恋ふらむ(良武)(1629)
- 「~ヤ~体言」に近く、古態を示すものか
- 人なる我哉 なにすと可 一日一夜も 離り居て 嘆き恋ふらむ(良武)(1629)
まとめ
- こうした異型の構文環境は「主語+ヤ」「連用修飾語+ヤ」にまとめられるが、これは「体言+間投助詞ヤ(+後続文)」「連用修飾語+間投助詞ヤ(+後続文)」が、「主語+ヤ…連体形」「連用修飾語+ヤ…連体形」へと展開していく過渡的な姿を留めるものとして捉えられる