野村剛史(2001.1)「ヤによる係り結びの展開」『国語国文』70-1
要点
- ヤによる係り結びに倒置・注釈・挿入説を想定せず、カの係り結びの位置に侵入したものと考える
ヤの性格と係り結び
- 終助詞・間投助詞ヤは呼びかけ、問いかけなどの対者的性格が大方認められる(1節)
- ヤの係り結びの成立に関しては、倒置説・注釈説・挿入説を認めがたい
- 倒置説は「…カ・ソ…連体形」以前に「…連体形…カ・ソ」というカ・ソによって構成された述語句の存在を前提とするが、ヤの場合はそういった述語構成的性格がない
- 注釈説も、喚体句に対して注釈的なカ・ソによる述語句の存在を前提とするが、ヤにはそういった性格がない
- 挿入説はそもそもカ・ソについて成り立たない
- 喚体句中に述語が挿入されることの難しさ
- 「挿入前」の実例の乏しさ
- 「…カ・ソ…ノ・ガ…連体形」という語順法則が挿入説では説明できないこと
- ヤに関しても「…ヤ…ノ・ガ…連体形」の語順法則があり、ヤが連体形喚体句の中に挿入されることが考えられない
- ここで、ヤの係り結びに関しては「何らかの事情で、「カ」に近いところのある「ヤ」が「カ」のあるべき場所に侵入した」ことを想定する
- (補説的に6節)もしくは「已然形+カ」の疑問条件法からの類推により「已然形+ヤ」が反語形式→反語条件法を確立させ、係り結び文の内部に入り込んだ、と考える
ヤの係り結び
- まず係り結びの文として、
- 疑問詞+カは中古に入ってもヤに侵入されない
- 以下の4種に分類し、疑問詞を持たないものを対照すれば、
- 問い~反語~不望予想の表現のために、ヤの問いかけ性が求められた、と考える
- 係助詞の役割としては、
- カ・ヤの機能として「選択的指定点ないし文情報の重要点」としての「焦点」を想定
- 当初、焦点化形式であったカは、情報としての焦点を示すものではなく、情意の卓立点を示し「係りのムードが一文を覆う」ように形式化していく(係り結びの形式化、野村1995参照)
- hjl.hatenablog.com
- 卓立的なカは間投助詞的側面を持ち(ただし、統語的には異なるが)、一方でヤも特に不望予想タイプが真偽性に関わらない疑問を提示するという点において、非焦点的である
- 結果的に、ヤによる係り結びは非焦点的なものが大部を占める