ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

大堀壽夫(2012.11)文の階層性と接続構造の理論

大堀壽夫(2012.11)「文の階層性と接続構造の理論」『国語と国文学』89-11

要点

  • 南モデルに、RRG(Role and Reference Grammar)の理論を導入し、南モデルの現代的意義を検討する

RRG

  • RRG*1は、文の構造を3つの層からなるものと考える
    • 内核nucleus)、中核(Core)、節(clause)
    • clause[周辺的語句:図書館で core[項:本を nucleus[借りた]]] f:id:ronbun_yomu:20180919173219p:plain
  • RRGは句構造とは別に、操作子(operator, 事態のありようを規定する文法要素)の表示を設ける。operatorは層と対応する
    • nucleus: 相、方向(移動経路)
    • core: 方向(事象の参加者間の関係)、根源的モダリティ、否定
    • clause: 認識的モダリティ、スコープの広い否定、時制、証拠性、言語内行為
      • 層ごとの順序は通言語的に一般化されるが、層内の順序は言語ごとに異なる
  • RRGについては

RRGと接続構造

  • 南モデルは陳述論的、文形成的な見方をするが、必ずしもその必要はない
  • 接続構造の分類を考えるために、RRGの連接・接合の考え方を導入する
  • 連接(juncture):接続は内核・中核・節という3つの層で起こる
    • 内核連接:[ᴄʟᴀᴜsᴇ [After lunch [I will ɴᴜᴄʟᴇᴜs[go] ɴᴜᴄʟᴇᴜs[see]] a movie]]].
    • 中核連接:[[After lunch ᴄᴏʀᴇ[I ɴᴜᴄʟᴇᴜs[tried]] not to ᴄᴏʀᴇ[ɴᴜᴄʟᴇᴜs [eat] too much snack]]].
    • 節連接:[ᴄʟᴀᴜsᴇ[After lunch ᴄᴏʀᴇ[she ɴᴜᴄʟᴇᴜs[had] a meeting]] but ᴄʟᴀᴜsᴇ[before that ᴄᴏʀᴇ[they might have already ɴᴜᴄʟᴇᴜs[reached] agreement]]].
    • このとき、南モデルの助動詞による操作子の分類は、「ある層で起きる連接において、従属する構造単位にはその層よりも外側の層につく操作子は生起しない」
  • 接合(nexus):結合する単位間の依存関係に、等位接続、従位接続(埋め込み構造)、連位接続(分布上の依存関係)という3つの関係を立てる
    • 等位接続:今日で試験が終わったし、レンタルショップで映画でも借りよう。
    • 従位接続:昨日で試験が終わったことがやはり学生たちには嬉しいようだ。
    • 連位接続:明日で試験が終われば、キャンパスから学生が減るだろう。
      • この例では「れば」の段階では時制が現れず、主節を参照することで二次的に時間の解釈が決められる(主節に依存する)
    • 連位接続について、「ある層で起きる連位接続において、自立性の低い構造単位についてはその層につく操作子の生起が抑止される」

南モデルの再分類

  • A類
    • 連用形反復は語的な性格が強く、内核連接として考えるとよい
      • なでなで:なでなでしてやり なでてやりでてやり なでなでてやり
      • これらは通常、複文の議論には入らないが、述語の結合度を内核から中核への尺度として見るのは「言語変化を考える場合にも有効」
    • ナガラ、ツツ、テ(様態)は、主語(項)や時間設定(周辺的語句)が共有されるので中核連接。さらに、中核レベルのoperatorである否定などが生起できないので、中核連位接続と見る
  • B類
    • テ(煙草をやめられなくて困る)は中核等位接続
    • 他のB類は項の共有が義務的でないので、節連接
      • テ2(理由)、テ3(継起)、ト、ナガラ(逆接)、タラ、テモ、連用形2(理由)、~ズ(ニ)は節連位接続
      • ノデ、ノニ、ナラは節従位接続
  • C類
    • ケレド、カラは(ノデ、ノニ、ナラと同様副詞節的に働くので)節従位接続
    • ガ、シは節等位接続
    • 従位接続に近いが、節の独立性が弱い例がある
      • 申し訳ないけど席を外してくれる?(陳謝)/いい子だから静かにしなさい(事実の明示的承認)
    • RRGでは言語内行為が最も外側の操作子で、独立した文単位にしかつかないので、カラ2、ケレド2を別に立てる必要がある

RRGと「階層性」

  • 文の概念レベルの問題は文構造と同一視する必要はない
    • RRGの層状構造は構造上の単位であって、モダリティなどの操作子は同一次元の構成要素ではない
    • 文の句構造と日本語の従属句における操作子の生起条件は、日本語の個別的性質(膠着語で、接尾辞が線的に連なる)によってたまたま可能であるというだけで、一般的性質ではない
  • 階層的な陳述論の成立が困難であっても、南モデルは接続構造の理論として意義を保つ

補足

*1:機能的言語学によるツリーを複数描くのが特徴で、項の移動はなく、ツリー側が移動する