ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

大西拓一郎(2002.9)方言の係り結び

大西拓一郎(2002.9)「方言の係り結び」『国語論究 第9集 現代の位相研究』明治書院

要点

  • 本土方言の係り結びについての共時的整理と、通時的見通しの提示

方言の係り結び

  • 以下の3タイプが見られる
    • こそ~已然形
    • 疑問詞~已然形
    • 疑問文~連体形
  • 形態面のの確認だけでなく、用法の分類と通時的解釈も示すことを目的とする

こそ~已然形

  • 西日本に広く分布するようにも見えるが、全体的には不連続な分散
  • 用法としても多様
    • 条件表現
      • 逆接
        • 対比逆接(前件・後件で対比的に扱うもの):アスッデカアレ、イタズラワシナカ[遊んではいるが、いたずらはしない](八丈島大賀郷)
        • 単純逆接:アンタカラコサバ聞カンカヨー知ットル(富山市
      • 順接:オマエコサイカニャ[お前こそ行かねば](淡路市
      • 逆接の余韻(後件がない):アソタヤデコソオシエテクレ。ホットネヨシテクレタイナ[あなただから教えてくれるのです。本当にありがとうございます](飛騨古川)
    • 陳述
      • 陳述の強調(こその上接部に焦点):ソイドテ コゴンシタラレ[それだからこうしたのよ](八丈島三根)
      • 陳述の反転(特に、意味的な陳述がこその上接部にあるもの):ヨクタラレガ[よかった](八丈島三根)
      • 断定(こその焦点化が不明瞭、ノダ相当):それコサレ[そのことだよ](滋賀県甲賀郡
    • 非陳述の強調:オヤナラコサリ[親なればこそ](三重県名張
    • 特殊用法(ここまでのものとは異なるもの)
      • 反語(文末コソで、反語を表す):シッテコソ[知りません](三浦郡西浦)
      • 限定(取り立てではなく、限定として機能、シカ相当):あの家コソ[しか]住むとこがない(桑名市
      • 疑問詞への接続(疑問詞~已然形と関連):何処へこそ行ったことやら(飛騨)
    • その他
  • 分布を示すと

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(p.357)

  • 通時的見通しとしては、
    • 条件表現が出発点で、対比逆接が一般的
      • 単純逆接は派生的で、文脈によっては順接にも使われた
    • 対比逆接から逆接の余韻が派生
    • 逆接の余韻が反語を生産
    • 一方、条件表現から「こそ」の強調の機能が独立して陳述表現が生産される
      • 陳述から、陳述の反転が派生
      • 一方で、「こそあれ」のような形が助詞としての用法に回帰する(非陳述の強調)
      • 陳述は(それが強調されることで)断定の方向にも移行
    • 疑問詞に接続することで不定詞との区別を明示化させる
      • 不定の「誰か」のようなものは已然形で結ばない

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(p.358)

疑問詞~已然形

  • 面白ケリャイ(姫路)
    • 来歴としては、「疑問詞+こそ~已然形」のこその脱落を想定

疑問~連体形

  • 八丈方言にしか見られない
  • ドケイ イクノウ[(かれは)どこへ行くのかなあ](八丈島三根)