高山善行(2009.3)「『平家物語』の対人配慮表現:「断り」表現を中心に」『国語国文学』48
要点
タイトルまんま
「断り」のタイプ
- 平家(高野本)には、以下のタイプが見られる
- 延期タイプ:後で実行するとして実行を先送りするもの
- (武士)「西八条へ召さるるぞ。きッと参れ」といひければ、(西光)「奏すべき事があッて、法住寺殿へ参る。やがてこそ参らめ」
- 条件提示タイプ:条件を設定し、その条件を満たせば実行するとするもの
- (頼政)「わが頸うて」と宣ひければ、~(唱)「仕ッともおぼえ候はず。御自害候はば、其後こそ給はり候はめ」
- 嘘タイプ:嘘話をでっちあげるもの
- (宗盛)「きこえ候名馬を、み候はばや」と宣ひつかはされたりければ、伊豆守の返事には、(仲綱)「さる馬はもッて候ひつれども、此ほどあまりに、乗り損じて候ひつるあひだ、しばらくいたはらせ候はんとて、田舎へつかはして候」。
- 意志表明タイプ:「単に意志を直接的に表明するタイプ」*1
- (今井)「君はあの松原へいらせ給へ。兼平は此敵ふせぎ候はん」と申しければ、~(義仲)「所々でうたれんよりも、一所でこそ打死をもせめ」
- 断った後の談話展開について、
- 現代では「断り→再度依頼→受託」「断り→撤回」の2パターンがあるが、複数回の断りは地の文でしか見られず、具体的なやりとりは会話文では描写されていない
- 断りの表現上の特徴として、以下の4点が指摘できる
- 定型的な「断り」表現は未発達である
- 理由説明がなされる場合が多い
- 謝罪表現は見られない
- 助動詞「む」「べし」「まじ」の使用が目立つ
対人配慮の萌芽
- 前置き表現に注目すると、以下のようなものが見られる
- 理をまげて乗せ給へ
- しかるべう候はば、御ゆるされを蒙りて、ちかづき参り候ひて、今一度見参にいり、昔物語をも申してなぐさめ参らせばやと存じ候。
- 与一かさねて辞せばあしかりなんとや思ひけん、(与一)「はつれんは知り候はず、御定で候へば、仕ッてこそ見候はめ」
- これらの例は対人配慮というより、人がなすべき規範(理)に対する「対理配慮」としての色合いが強い
雑記
- リーディング大学院の話を聞くとき、毎回モノポリーのリーディング鉄道を思い出してしまう
*1:これは代案の提示と見たほうがよいのでは?