迫野虔徳(2012.12)「仮定条件表現「ウニハ」」『方言史と日本語史』清文堂
要点
- 東国抄物に見られる「ウニハ」の再検討
問題
- 金田弘の指摘する、東国抄物の特徴語
- コピュラのダ
- 助動詞ナイ
- 助動詞ヨウ
- 助動詞ベイ
- ハ行四段動詞連用形促音便
- 形容詞連用形の原形保持
- 接頭辞の促・撥音便
- 四つ仮名の混乱
- 自称の代名詞オレ、オレラ
- 二段活用の一段化
- 借る・足るの一段形
- 命令形ロ
- 敬意の命令辞シ(イ)、サシ(サイ)
- カラリット型型擬声語・擬態語
- 外山映次はさらに以下を指摘
- 助詞カラ
- サ行連用形イ音便
- バ・マ四段連用形ウ音便
- 助詞イデ
- 条件句タラウニハ
- タラウニハは、東国が先行するとか、関西系が先行するような現象ではなく、やや特殊
- 関西系の抄物やキリシタン資料には見られない
- 外山(1969)では、関西語系の文章の影響を受けて東国語系に導入され、一方の関西語系では室町時代末期に消滅した表現とされる
- 来田隆は、無門関抄の未バとウニハを比較し、
- ダニ・サヘとの共起が目立つこと
- トモ・テモによる強調表現の例が多いことを指摘し、
- 「「その条件のもとでは、必然的に(当然のこととして)後件のような結果になる」という主体の確信的判断を強く訴えかける表現形式である」という解釈を示す
- ただし、タラウニハに集中する点については解明する必要がある
ナラウニハ・タラウニハ
- 洞門抄物のウニハは、タラウニハ・ナラウニハに偏って使用される(外山1969も参照)
- 一方で、史記抄のウニハ、延慶本のムニハは多岐にわたり、連続性がある
- 延慶本:アラムニハ、候ハムニハ、候給ハムニハ、仕候ハムニハ、聞候ハンニハ、…
- 史記抄:食ワウニハ、死ナウニハ、トラウニハ、セウニハ…
- ここで、中世の条件表現の変革が想起される
- 未バ・已バの衰退とナラバ・タラバの一般化
- 洞門抄物のウニハは、タラバ・ナラバ・アラバの集中と並行するものと見るべきもの
- タラバ―タラウニハ
- ナラバ―ナラウニハ
- アラバ―アラウニハ、ゴザラウニハ、ヲリヤラウニハ、ナカラウニハ、ザラウニハ
- ウニハ・ムニハは条件表現というよりむしろ、「ニオイテハ」のニュアンスがある
- ロドリゲス大文典でも同様
- 死ナムニハ[=ニオイテハ]何事カアラムト思ヒ取テ、不祈ヌ也(今昔)
- 「この条件のもとでは未然の行為が間違いなく果たされることを強調している」のがムニハで、来田説のウニハに近い
- すなわち、洞門抄物においてはバ―ウニハの対がそれなりに機能しており、ウニハは単なる文語的慣用表現ではなく、活発な口頭語であった
ウニハとウバ
- ウニハはその後、ウバに縮約
- そちがゆかふハ身共も行(虎明本)
- ロドリゲス小文典において、
- 肥前で Motomeôba, Motomete arǒba があることの記述
- 方言において、
- GAJ3「起きれば」
- 天草に okeroba
- okiroba ogiroba が千葉・茨城・山梨など
- 東京都北西部に「ハックベロバ」(=くべれば)
- など、関東・中部を中心に~ロバが広がる
- GAJ3「起きれば」
- これらロバはラウニハの縮約で、仮定条件形式として方言で捉えられていたことが分かる
雑記
- (僧衣で車を運転できるかは別の話として)「僧衣で縄跳びできるから僧衣で車を運転しても問題ない」は論理的におかしいと思う
- それがOKなら、高下駄で縄跳びできたら高下駄で車を運転してもよいことになってしまう