楊瓊(2015.3)「上代の接続詞「しからば」の発生について」『同志社国文学』82
問題
- 日本語接続詞は中古においては未発達だが、シカラバの例が上代に既にある
- 万葉集唯一のシカラバの仮名書き例
- 人妻とあぜかそを言はむ然らばか(志可良婆加)隣の衣を借りて着なはも(万3472)
- 作者未詳の東歌であり、漢文訓読の表現が持ち込まれたとは考えがたい
- このように考えると、シカラバは日本固有で、後に訓読文に定着したのではないか
日本の文献におけるシカラバ
- 古事記では「然者」がシカラバと訓まれる
- 文頭に位置するものが多く、後続文は意志表現と命令表現に偏る
- 曾婆訶理答白隨命。爾多祿給其隼人曰,然者殺汝王也。〈曾婆訶理「命の隨に。」と答へ白しき。爾に多に祿を其の隼人に給ひて曰りやまひしく,「然らば汝が王を殺せ。」とのりたまひき。〉
- 「然」字が訓まれた例も同様
- 文頭に位置するものが多く、後続文は意志表現と命令表現に偏る
- 正格漢文を志向する日本書紀は異なる様相を示す
- 若然者、然則がシカラバと訓まれ、
- 後続文は疑問・推定に偏る
- 訓点資料の場合、若然者・若爾・然則・而即で、疑問・推定が後続する点で日本書紀の用法に近い
中国文献における若然者・然則
- 正格漢文においては、若然者・然則はいずれも順接の接続詞
- 江戸時代の漢学において、若然者は「サフレアルヨフナレバ」、然則は「サフアル時ハ~カクノ如クアルハヅ」と記述される
- 然則が若然に先行することの指摘あり
- 漢籍において、然則には疑問・推定が後続しやすい
- 若然者は仏典において「もしそれならば」の意で(シカラバ相当で)専用され、特に後続文は疑問に偏る
- 問曰,若然者,聖人何以修道耶。(阿毘曇毘婆沙論)
まとめ
- 日本書紀のシカラバは仏典の用法を受け継いだもの
- 古事記の用法は日本独自に生じたもの
- もともとシカラバは上代日本語に自然に生じたもので、これが漢文訓読文において文体性を帯び、後続表現も固定化したものか
- 展望として、
雑記
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