中野伸彦(2015.2)近世における「~まじりに~」
中野伸彦(2015.2)「近世における「~まじりに~」」『近代語研究』18
要点
- 「AまじりにB」において、近世には、現代にない、AとBの仕手が異なる場合がある
現代語の「AまじりにB」
- 現代語のパターンの整理
- ①[Bと合わせて外へ向けて発せられる行為]まじりに[人の行為]:ため息まじりに言う
- ②[Bの行為の背後に含まれる思い]まじりに[人の行為]:冗談まじりに言う
- ③[Bに含まれる行為]まじりに[人の行為]:きつい方言まじりに語る
- ④[Bと同時に、Bを含みながら/Bに含まれながら起こる現象]まじりに[自然現象など]:雨まじりに雪が降る
- ⑤[Bの現出させる要素の一部]まじりに[自然に起きた現象]:冷や汗まじりにびっしょりになっていた
- ⑥[Bと同時の行為]まじりに[人の行為]:寒気をため息まじりに吐き出す
- ⑦[行為の仕手の外部で起こり、Bを含みながら/Bに含まれながら行われること]まじりに[行為]:駅員が雑音まじりに聞く
- ⑤~⑦は稀な例
近世における「AまじりにB」
- 近世における「まじりに」を見ると、
- ①口合まじりに見渡せば/わらいまじりにいとまごい
- ②ふざけまじりに~などゝいふ/しやくりまじりにいふ
- ③片言まじりに「~」/あくたいまじりに
- ④雪吹(ふぶき)交りに吹く
- ⑤なし
- ⑥小屏風はしきし交リに張ちらし
- ⑦はなし
- この点に関して、おおよそ現代語と同様だが、
- ①について、Aが言語的表出行為である例は現代語に稀か
- 口合まじりに、はり込まじりに、無駄口まじりに、寝ごとまじりに
- ④について、「はした銭が四文銭まじりに五六十有」も現代語では容認されにくいか
- ①について、Aが言語的表出行為である例は現代語に稀か
- 現代語にない例としては、
- ⑧[同時に別の人によって行われるBと同じ行為]まじりに[人の行為]
- きん〳〵の通り者。芸者一両人牽頭交りに腰うち掛ル。
- 乳人交りにどつたくた。
- 御供の若い者二三人、出入医師まじりに、あすハ出立。
- ⑨[A:何かにAが含まれる状態を伴う]まじりに[人の行為]:腋臭まじりにくる
- ⑩[Bに伴われるもの]まじりに[形容詞]:洒落まじりに堅いお人
- ⑧[同時に別の人によって行われるBと同じ行為]まじりに[人の行為]
- 特に目立つのは、⑧が多く見られること。上方資料にも、
- この好人役者まじりに懺悔咄しせし時(好色一代男)
- 二つの別のものが述語Bを共有する点では④に近い
- 明治にも例はあるが、現代ではおそらくない
- 線路沿いに徒歩連絡する旅客の群がバスケットを下げた子供まじりに通って行った。
- これは、「人の行為とものに起きる現象の間に、ことば上での差異が起こる」ものとして考えられる
- なお、「人の行為とものに起きる現象の間に、ことば上での差異が起こる」現象に、「ひとりで」「ひとりでに」の使い分けの例がある
- 現代:ひとりで作る/ひとりでにドアが開く
- 近代では、「ひとりで戸が開く」(泉鏡花)の例がある
雑記
- 締切大詰めなので少し日課をお休みしたいけど、休んだら再開しない気がする