ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

山口響史(2019.3)チョウダイにおける行為指示用法の成立

山口響史(2019.3)「チョウダイにおける行為指示用法の成立」『愛知淑徳大学論集 文学部編』44

前提

  • チョウダイの以下の意味変化と、授受表現史の中での位置付けについて考えたい
    • 上に掲げる
    • 受け取る(頂戴する)
    • 行為指示(お菓子頂戴)
    • 補助動詞による行為指示(聞いて頂戴)

チョウダイの歴史

  • 中世末期の例としては虎明本の例しかなく、しかも(受け取るの意も読み取れるが)掲げる意でも読める
  • 17C、授受行為を伴いつつ掲げる例が確認される
  • 18C、掲げることのできない対象物(御知行)を頂戴する例があり、次のように、チョウダイの使用頻度の高さを窺わせる例もある
  • 18C後半、行為指示を表す例も見られる
    • ただし、後に婦人語・幼児語となるが、この段階では話者は男性
    • そもそも盃などを「頂戴」することが多かったためであろう
    • すなわち、待遇価値も現代の「親しみ」感とは異なる
  • 19C、与え手が聞き手でない例(いただきますに近い、現代語のチョウダイは聞き手が与え手)もあり、まだ近世期に確立しているとは言えない
  • 明治に入って確立する
  • 行為指示への拡大は、チョウダイスルの語幹部分が名詞として取り出され、名詞用法がその(行為指示と同様の)使用場面(ご飯!)によって行為指示用法として解釈可能であったものと考える

位相差とイタダクの歴史

  • 明治期以降の位相差は、以下の流れで生じたと考えられる(p.171)
    • チョウダイの話者が「成人男性のみ」から「女性・子供」へ拡大した。
    • 与え手が「貴人」から「平人」へと拡大した。
    • 改まった(とりわけ飲食の)場以外でも使用されるようになった。
  • すなわち、行為指示用法は使用場面の拡大の中で、新たな担い手のみが独自に使用するようになった用法である
  • イタダクの歴史(山口2016)は「受け取る」意味への変化時期、行為指示が見られる時期がチョウダイと重なるので、チョウダイもこの変化と連動したのではないか
    • 理由はよくわからないが、酒の席が改まった場から解放され、チョウダイの使用場面の制約が緩んだことが関係するか

雑記

  • 非常勤の月給問題、結局「みんな貧乏が悪いんや」みたいな感じになる