金子彰(2018.11)「鎌倉時代の女性文書とその言語特徴」沖森卓也編『歴史言語学の射程』三省堂
要点
- 女性文書から、鎌倉当時の口語性や地域性を読み解く
恵信尼文書の口語性
- 記録の世界における女性は、時代を経るに連れて増加
- 鎌倉遺文においても、中世において文字使用層への女性の進出が伺われる
- 1,2節は女性数・女性文書数のデータ
- 恵信尼文書は、鎌倉遺文中で複数文書が見られる
- 晩年の建長8[1256]~文永4[1267]に書かれ、越後から京都に住む自分の娘に発信されたもの
- 恵信尼文書には当時の生の言語が見られるので、これを見ていく cf.「なにことも申たき事」
- 恵信尼文書の言語記述を見ると、
- 外来語の漢語の受容
- 字音語の表記は、漢字音の表記規範から外れるものが多く、漢字音の国語化を示すものとなる
- 喉内発音ŋの混乱:たいふ(台風・ゼロ表記)、御えい(影・い表記)、たふし(当時・ふ表記)、こうちやう(弘長・う表記)
- 唇内入声音pは本来のふ表記が少なくう表記が多い:たふし(塔師)、おとほうし(乙法師)、しうしん(執心)
- 言語の口語性を示すものとして、
- 助動詞むず
- 助動詞たし
- 動詞・補助動詞たぶ
- 終助詞やらむ
- 助詞とん
- 言語の地域性を示すものとして、
- 形容詞の非音便表記:うれしく候
- ロドリゲス大文典にて、関東または坂東の条に形容詞非音便の記述あり
- ハ行四段動詞連用形もウ音便化しない
- 形容詞の非音便表記:うれしく候
雑記
- 本当に2018年が終わった、さようなら