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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

高山百合子(2015.8)佐賀方言における用言の「語幹化」

高山百合子(2015.8)「佐賀方言における用言の「語幹化」」『人間文化研究所年報(筑紫女学園)』26

要点

  • 佐賀方言「ハヤカ」「リッパカ」など、カ語尾が語幹に取り込まれていることを指摘し、
  • これがラ行語末促音形にも見られることも示し、種々の現象を「語幹化」の観点から捉え直す

前提

  • 佐賀市方言に見られる以下の現象を、「語幹化」という観点から捉え直したい
    • 形容詞のカ語尾形
    • コピュラのない「いい天気」のような「助動詞なし」の表現
    • 動詞終止形語末ラ行促音形(オキッ)
    • 五段化
  • すなわち「形容詞カ語尾や動詞語末ラ行促音形は、語形の中核として語幹に準じる機能を果たしていると見ることができるのではないか」

語幹化の視点から

  • 形容詞において、以下の例は共通語的には語幹はハヤだが、連用形・否定形を除けば~カまでを語幹として一体化させ、そこに接辞類を付接させて語形を作っている
    • ハヤカロー  ハヨー(シテ)ハヨー(ナカ) ハヤカッタ ハヤカ ハヤカギ
    • リッパカデス キレイカデスなど、カが体言相当として機能するとも取れるが、ここでは語幹化と見ておく
    • 音便形もまた、そこで一語化した形式と見ることができる
  • コピュラにおいて、「いい天気だ」のダを方言で訳すことができず、「テンキンヨカ(良い)」は可能
    • これもカ語尾に陳述機能が認められる事例
  • 動詞活用において、語末促音形(ミッ ニッ オキッ)や未然形末尾の発音、意志系の長音に一語化の機能が認められる*1
    • 連用形起キッタ・見ッタに見える五段化も、やはり「起キッ」「見ッ」が語幹の役割を果たしているものと見ることができる
  • 以上、佐賀市方言には「形容詞・形容動詞および動詞のいずれにも、カ語尾や語末促音のような目印をもつまとまり、あるいは音便化した形式を語形の中核に据えて比較的単純な活用をするような傾向がある」

雑記

  • また佐賀行きたいな

*1:他活用は語末促音にならないわけで、なぜこれが語幹と言えるのかよく分からず、ちょっと恣意的な感じはする