ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

肥爪周二(2018.11)上代語における文節境界の濁音化

肥爪周二(2018.11)「上代語における文節境界の濁音化」沖森卓也編『歴史言語学の射程』三省堂

前提

  • 連濁(以下、清音の濁音化)は融合、促音挿入は分割というイメージがあるが、以下のような語例を見ると、どちらも複合語で、形態素の結合度に差はない
    • みぎがわ/みぎっかわ あおじろい/あおっちろい うわづら/うわっつら かわべり/かわっぺり
  • 濁音化と促音挿入が起こる環境を見ていくと、
    • 複合語の内部境界
    • 派生語の内部境界
      • a 接頭辞との境界:かぐろき / まっすぐ
      • b 接尾辞との境界:子ども / あっち
    • 付属語との境界:係助詞そ→ぞ / あしたっから
    • 付属語と付属語の境界:今こそば・君をば / 食べたっきり・食べてっから
    • 単純語の内部
      • a 同音連呼:かかやく>かがやく
      • b それ以外 おきぬふ>おぎぬう / 尤(モントモ、大日経疏長治元年点)、やっぱり、あっぱれ
  • まず促音挿入のうち、
    • やっぱり、あっぱれはひとまず強調として理解できる
    • 意味の切れ目の場合でも、ある種の強調に由来する
      • 真っ暗、ふきっさらし
  • 一方で濁音化の場合も、語中の清子音を強調した場合に、「声帯振動と閉鎖を両立するための「圧抜き」が起こり、そこに鼻音が発達したことにより「濁音」化した」もの
    • すなわち、濁音化と促音挿入は、いずれも語中子音の強調(延長)によるもの
  • このようにして、濁音化と促音挿入を並行する現象として考えたとき、「あぶない!まれ!」のように、文節境界にも促音挿入(発音待機、音韻論的に促音が存在するわけではない)が起こりうるので、「文節境界における濁音化」についても同様に見いだせるのではないか、という予想

具体例

  • 散る:花ぢらふ(波奈良布)
  • かは(川):天の河(安麻能波)は「例外的」とされるが、許乃泊、安素乃泊良、伊豆美乃波といった例がある
    • なばら、かきつばた は語構成意識が緩んだものと考えられるが、「あまのがわ」はそうとは考えられない
  • ミ語法:山高み(夜麻加美、古事記歌謡)
    • 上代語においてパターンが固定化しつつあったミ語法に、「文節境界で濁音化が起こり得たと」いう過去の痕跡が残っていた可能性
  • 記紀重出歌謡の清濁相違例
    • やまごもれる/こもれる 口ひひく/口びひく はやぐひ/はやくひ 山田をづくり/山田をつくり
  • 以上のように、いわゆる連濁は一語化の標識と捉えられることはあるが、上代においてはそうとは言えない
    • 単語という概念・ふるまいが現代とは異なり、「単語」の性質が歴史的に変化したという可能性

雑記

  • エスカレーター右側歩くな問題は、駅員が効果のない誘導をするのをやめて、実際に右側に立ち続けることによって解決するのではないか