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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

蜂矢真弓(2019.5)一音節名詞ア・イ・ウ・エ・オ

蜂矢真弓(2019.5)「一音節名詞ア・イ・ウ・エ・オ」毛利正守監修『上代学論叢』和泉書院

前提

  • 上代特殊仮名遣の崩壊に伴う一音節名詞の同音衝突と、その回避のための方策
    • 必要な一音節語のみを残し、
    • それ以外は廃語にするか、
    • 既存の多音節語に置き換えるか、
    • 改修して多音節化する
  • 中古の e/je, o/wo, 中世の i/wi, e/we の混同による同音衝突を含めてア・イ・ウ・エ・オのことを考えたい

  • 他の音韻との統合がなされないので、aの中でのみ同音衝突を起こす
  • アは単独母音であり、複合語の後項部に位置した際に原形を留めずに、意味が分かりにくくなってしまう。これを避けるため、全て多音節化した
    • 被覆形しか存在しないため対象外となるもの:足・網
    • 多音節化:吾・畔

  • イ音便の発生により複合語後項部に生起可能になった
  • そのため、単独母音名詞イは1つは残るはずであったが、i/wiの統合によりイ(胃)が残ることとなった
    • 別語:汝、眠
      • 眠は上代で既に「イをヌ」の形でしか存在できなかった
    • 多音節化:五十
      • 三十、四十などの類推により多音節化したか
    • 肝はキモに統合される

  • ウ音便の発生により複合語後項部に生起可能になった
  • そのため、ウ(鵜)のみが残ることとなった
    • 被覆形しかないもの:海
    • 多音節化:兎
      • 鵜と同音衝突を起こしたためか*1

  • ア同様音便との関係がないので、形態を保持したまま残るものはないはず
  • であるが、je/weとの統合により、江(柄)、ヱ→エ(絵)が残り、
  • 上接語により意味の判別が可能であるため、2語残ったと考えられる
    • 多音節化:榎
      • エノキ、ヒノキなど、~ノキ類参照
    • 荏は平安初期に「イヌエ」など、単独でない形態でしか出ない
    • ヤ行のエについては、柄以外が多音節化(枝、兄、江、胞)

  • 音便と関係がなく、そもそも上代から存在しなかったか
  • ヲ→オ(尾)、ヲ→オ(緒)が残り、
  • 上接語により意味の判別が可能であるため、2語残ったと考えられる
    • 多音節化したもの:麻、雄、男など

雑記

  • やっぱ勉強はしたほうがいい

*1:兎のほうが負けたのはなぜ?