ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

鴻野知暁(2018.12)上代日本語の複合動詞の項構造について:二つの内項を取る場合を中心に

鴻野知暁(2018.12)「上代日本語の複合動詞の項構造について:二つの内項を取る場合を中心に」『言語・情報・テクスト』25

要点

  • ONCOJを使い、複合動詞の取る項について考える
  • 上代の複合動詞の項構造は以下の4つに分類される
    • 3は影山の「主要部からの受け継ぎのみ」(ドアを押し開ける)
    • 4は「主要部と非主要部からの受け継ぎ」(夜の街を酒を飲み歩く)で、現代語には珍しいが上代には50ほどあり、振る舞いが異なる

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p.44

  • 以下、タイプ4について
    • 「漕ぎ出づ」「恋ひ来」「見明らむ」「V暮らす」には、V1とV2の両方の項が顕在化する例がある(顕在化しない場合もある)
      • 防人の堀江漕ぎ出る伊豆手船(4336)
    • 呼びとよむ、踏みVはV1かV2のどちらかが顕在化する例がある
    • タイプ4には以下の選択制限がある

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  • タイプ4が許容されるのは、1つの述語に対して2つの目的語が係り受け関係を結び(23)、交差構造(21)が生じないため

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  • まとめ、
    • タイプ4の複合動詞は、意味的にはそれぞれの内項が別々に関係を結び、統語的には単一の述語として働いて2つの目的語を取る
    • 今回の結果は、上代語ではV1が項構造の決定に積極的に参与していたことを意味する
    • これが許容されなくなっていったのは、項構造の類似した動詞の複合がより好まれるようになったためか

雑記

  • 博論が公開されていることを知る

doi.org