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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

永澤済(2017.3)複合動詞「Vおく」の用法とその衰退

永澤済(2017.3)「複合動詞「Vおく」の用法とその衰退」『名古屋大学日本語・日本文化論集』24

要点

  • 「Vおく」について、近代に用法が限定化し、生産性が低下したことを示す

問題

  • 近代以前の「Vおく」は生産性が高いが、
  • 現代においては、書き置く、取り置く、据え置く、程度で生産性が低い
  • その実態と衰退の様相を明らかにする

Vおく

  • 近代までのVおくの例
    • 蘆檜木笶 荒山中尓 送置而 還良布見者 情苦喪(万1806)
    • をそくとく つゐに咲きける 梅の花 たが植へ置きし 種にかあるらん(大和)
    • 義朝、これらが事を心苦しく思ひ置きて、童金王丸を途より返して、(平治)
    • 馬にはわづかに草の糜ともしきほどに与へて飼ひ置きぬ。(浮世物語)
    • 同人ノ依頼ニ因リ翌明治八年一月二十五日迄之ヲ貸渡シ置タリ、(近代民事判決)
  • 用例を分類すると、
    • 存在を表すもの(置くの原義保持)
      • 送り置て(上例)
      • 所残作稲七十余束令苅置之処(東福寺文書[1287])
      • 伐採シ置キタルニ、(近代民事判決)
    • 効力持続を表すもの
      • 渡シ置タリ、(上例)
      • 増税を拒絶するの惡例を作り置くの、自己の將來に不利なるを感じたればなり。(太陽1901・政治時評)
    • その中間的なもの
      • 母尼、廿余年耕作来畠仁、令居置年来下人之処、(相良家文書[1249])

VおくとVておく

  • Vておくの中心的意味特徴は「後の時点における効力の発現を見越して、意図的にその行為を行う」ことであるが、Vおくにその意味はない
    • 「露國との間に、成立せしめ置くは、滿州問題の如何に豹變するに關せず、極めて必要也。」(太陽1901)のような、効力持続かつ事前に準備する意図がある場合には意味が近接する
  • 太陽コーパスで調べると、1895年の321例から徐々に現象し、1925年では30例となるので、近代にその用法が限定化したものと考えられる*1

雑記

  • パズルのやりすぎで生活に支障が出てきた

*1:やや短絡的か?とも思う。