大坪併治(2003.9)「石山寺本『大智度論』天安点における文法上の諸問題」『訓点語と訓点資料』111.
要点
- 石山寺本『大智度論』天安点には、以下の文法上問題のある点がある。
- 動詞:サ変+キにおいて、セシ・セシカでなく、シシ・シシカとする場合がある。
- 副詞:
- 「当」をマサニ―ベシ、「如」をタトヘバ―ゴトクと再読する例がある。
- 「如」に「今」と注し、イマと読んだ例が多い。
- 「如」に「今」と注し、イマーゴトキと再読する例、文末にゴトシを補読して、イマ―ゴトシと呼応する例がある。
- 「頗」は他の資料ではモシとよみ、疑惑・推測を表すが、本点ではスコブルと読ませて、同じ意味を表す。*1
- 助詞:
- 使役にヲシテの例が最も多く、
- トは格助詞のトと並列助詞のトを異なった点で表す(成実論、山田本法華経なども同様)が、並列のトを並列以外に使用する破格的用法がある。これは「共同作用の相手」の範囲に限られ、加点者はこれを、並列に近いものと見たのであろう。
- また、「乃至」を「ト」と読んだ、別のタイプの誤りもある。
- 助動詞:
- ゴトシの連用形を文終止に用いる例がある。
- これには単に倒置では説明できない例があり、後から言い添える「…ヤウニ」の意味の「如」が先にあって、「…ヤウダ。」の場合にも用いるようになったものと見る。
- タリ・リではタリが比較的多く、
- ケリが会話・心話、終止ナリが会話に用いられ、終止形の例だけがある。
- ゴトシの連用形を文終止に用いる例がある。
- ク語法だけで(善哉やノミを伴わずに)文を終止することがある。これは、祝詞・宣命にも類似例がある。
- 是(の)故(に)仏に問(ひ)たてまつらく。
雑記
- 古本として売られていた形跡がある、学会の風間ブースで売ってたけど、今でも買えるんだろうか
*1:おもしろ~