ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

室井努(2006.1)今昔物語集の人数表現について:数量詞転移の文体差と用法および数量詞遊離構文に関して

室井努(2006.1)「今昔物語集の人数表現について:数量詞転移の文体差と用法および数量詞遊離構文に関して」『日本語の研究』2(1).

要点

  • 今昔の数量詞転移・数量詞遊離について、以下の2点を明らかにする
    • A 数詞単独:三人共ニ一家ニ住シテ世ヲ過ス。(10-2)
    • B QノN型:極テ貧シキ一ノ女人有ケリ。(16-9)
    • C NQ型(数量詞転移):僧一人住ム事无クシテ(31-20)
    • D NCQ型(数量詞遊離):娘ノ一人侍ルガ(26-8)
  • ① 今昔内の基調とする文体によってB・Cの出現に差が見られ、B・C型の間には用法差が存すること
    • 巻1-20においてB型が、巻22-31においてはC型が優勢
      • これは、人数表現において、訓読文に原漢文を訓読したB型が多く、平安仮名文にはC型が多いという傾向とも一致する
    • 同じ人物においてB型とC型が共起する場合、以下の用法差が見られる
      • Ⅰ C型は不定、B型は定*1:今昔,震旦ノ[  ]代ニ兄弟三人(C型)有ケリ。……此ノ三人ノ兄弟(B型),同心ニ相語テ云ク,(10-27)
      • Ⅱ C型が全体数量、B型が部分数量?:孔子,車ニ乗テ道ヲ行キ給フニ,其ノ道ニ七歳許ノ童三人有テ戯レ遊ブ。其ノ中ニ,一人ノ童不戯遊ズシテ,道ニ當テ土ヲ以テ城ノ形ヲ造レリ。(10-9)
        • これも、定・不定の関係で捉えてよいが、「一人」は新情報であり、現代語では非文である(奥津1996)
        • Ⅰに関しては依拠文献と異なることが多く、今昔撰者による表現と考えられるが、Ⅱは依拠文献の影響が大きい
  • 和文脈を中心にD型がその勢力を拡大すること
    • D型は今昔の巻22-31に偏るが、平安仮名文にはD型はほとんど見られないので、この時代に数量詞遊離の使用に発展があった可能性がある

雑記

  • とりあえず一週間続いてよかったネ 一度失った習慣を取り戻すのってむずかしい

*1:面白すぎる、同格のノが説話開始部に見られやすいのとなんだか似てる?