ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

尾上圭介(1983.10)不定語の語性と用法

尾上圭介(1983.10)「不定語の語性と用法」渡辺実編『副用語の研究』明治書院

前提

  • 不定語の語性に「(その物なら物、人なら人、数なら数の)内容が不明、不定であること」という不明性・不定性を求める
    • 「だれか」「なにか」のような不定称者指示を「不定語」と呼ぶことはしない
  • 「一部が空欄になっているような」表現は伝達上有効でないが、以下の2つの場合には意味を成し得る
    • α 特定・明確化を志向するもの:不定不明部分の特定、明確化を求めることがその表現の意味である場合
    • β 特定・明確化を志向しないもの:不定不明部分の特定、明確化を目指さないことが積極的にその表現の意味である場合
  • 見通しを先に示す

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p.406

不定語の用法

  • α 特定・明確化志向系用法
    • α・1 特定要求型用法
      • A 疑問用法
        • A1 驚嘆的受理タイプ(なに!)
          • 話し手において明確化できないことを一旦不定語で表現し、後続文に委ねる
        • A2 詠嘆タイプ(なんと大きな~)
          • A1,2は「どのよう」なのかが特定把握し難いほどであることを不定語の使用によって表現
        • A3 疑タイプ(どこで落としたのだろう)
          • A1,2の裏面に隠れていた特定要求の姿勢が現れ、疑問表現へと連続する
        • A4 問タイプ(あれは何ですか?)
          • 不定項の特定を聞き手に求めるもの
        • A5 反語タイプ(誰が信じるか)
          • 特定要求の形をとりつつ、不定部分を埋める答えがあるのかを疑わざるを得ないことを表現
      • B 希求用法(いつしか+希望/いかで~得てしかな/どうか/どうぞ)
        • 不定項そのものに表現の焦点はなく、事態全体そのことを志向する類型
        • 「なんとかして外国へ行きたい」であれば、外国へ行くための方法が不定で、そこを埋めることで事態の全体を確定しようとすることがα的
    • α・2 未定対象指示型用法:内容の特定、明確化を求めているという姿勢をもって不定事態そのものを指示する用法
      • C 不明確項指示用法(何かぶらさがっている)
      • D 不明確事態指示用法(何を買うやら分からない)
        • なお、C,Dは古典語にはない
  • β 特定・明確化不志向系用法
    • β・1 特定放棄型用法:特定を明確化しない、できないことに積極的な意味がある場合
      • β・1・1 特定不要型用法
        • E 汎称用法:不定項に何を代入してもその事態が成立することを示し、特定不要であることを主張する
          • E1 汎称否定タイプ(何とも我を思はねば/誰も知らない)
            • 不定+知らない」の不定項に何が代入されても成り立つことをもって「すべての人が知らない」ことを示す
            • モは「Aさんは知らない」ことの同類(Bさん、Cさん)を合説するモが不定語の場合にも有効になっている
          • E2 少数少量タイプ(いくだもあらず/いくつも残らなかった)
            • E1の特殊ケース
          • E3 汎称肯定タイプ(誰とも寝めど/何よりも面白い)
          • E4 多数多量タイプ(いくつもある)
            • 不定項にどんな数を代入しても「ある」という事態が成立することから、たくさんあることを表現する。E3の特殊ケース
          • E5 一般性状況語タイプ(いつも陽気に暮らしましょう)
            • これも一種の汎称性の用法だが、A1,3が格成分に関するものであるのに対し、これは時・所・様態などに関する汎称性
        • F 条件一般化用法:不定項に何を代入しても結論に変わりはないことを示し、特定不要であることを主張する
          • F1 汎称性条件タイプ(どこに出しても恥ずかしくない)
            • E(特にE5)と連続するが、事態の中心から離れた条件的部分を焦点とするので、条件の任意性に傾きやすい
          • F2 逆接条件任意タイプ(どこで死のうと)
            • 事態の任意性をあえて主張する意味があるのは逆接条件で、F1の汎称性と連続
          • F3 任意項対比タイプ(いづくはあれど)
            • みちのくはいづくはあれど しほがまの浦漕ぐ舟の綱手かなしも(古今1088)
            • 事態A[不定項(場所)―心ひかれない]…事態B[しほがま―心ひかれる]という対比のもとで、事態Bの結合の強さを強調する
              • 特定項のために対比させる点においてF2とは区別される
          • F4 不限定注釈タイプ(誰かれ問わず)
            • 注釈句として働く点において、Fに含められる
      • β・1・2 特定不能型用法:不定項の特定不可能を主張することに表現としての意味があるもの
        • G 限定拒否用法
          • いつはなも恋ひずありとはあらねどもうたてこのころ恋し繁しも(万2877)
          • いつどこで習ったというわけではない
            • この時ここで習ったと特定することができないということをもって「いつの間にか自然に身についた」ことを主張する
        • H 「裏面からの指定」用法
          • 水底に沈く白玉誰が故に心尽くして我が思はなくに(万1320)
          • 誰に頼まれてやるというものではない。
            • 他に求めて特定できるものではないというところから「他ならぬ○○」という特定内容を指定するもの
    • β・2 特定不要対象指示型用法:特定を求める必要のない対照を不特定のまま指示する場合
      • I 「某」項指示用法
        • I1 引用中「某」項指示タイプ(どこへ行った、かしこへ行ったといちいち言い立てる)
        • I2 定対象指示タイプ(なんでしたら/うちのナニが)
          • わざわざ特定することを嫌って/省いて行う
  • 再度語性について、
    • 不定語の語性は不定・不明であるという空欄性に求められる
    • 古典語においては不定語の文型にカ・モを必須の要素とするものが少なくないが、不定的対象化の助詞カがαと結びつき、合説・許容性の助詞モがβと結びつくことによる

雑記

  • 文法と意味2……?(平成が終わろうとしている)