秋田陽哉(2015.5)源平盛衰記に見られる命令を表す「べし」
秋田陽哉(2015.5)「源平盛衰記に見られる命令を表す「べし」」松尾葦江『文化現象としての源平盛衰記』笠間書院
要点
- ベシの命令の意について、以下の点を示す
- 中古にはほぼ見られないが、中世に多く見られるようになること
- 盛衰記には多く見られ、覚一本・延慶本より新しい語法を示すものか
前提
- ベシの多義性の中で、命令をどのように位置づけるかという問題がある
- 命令形が示す命令とは異なるものとする立場
- 命令の意味を積極的に認めないほうがよいとする立場
- 中古・中世のベシの調査を通して、ベシの用法から盛衰記を語法史上に位置付ける
中古~中世のベシ
- 中古において、仰すの直前の会話文に命令を表す語が現れることがあるので、ベシがそのような現れ方をするかを見てみると、ほとんど現れない
- 「其のよしつかうまつれ」とおほせたまうければ(大和)
- 「さも言ひつべし」と仰せらる(枕)は、推定のツベシで命令ではない
- 摂政殿御覧じて、「まづ祝の和歌ひとつ仕うまつるべし」と仰せらるるままに、(栄花)のような例はほとんどない
- 中世において、「仰下ス」「下知ス」「申遣ス」に着目して見てみると、延慶本・覚一本に比して、盛衰記はその位置にベシが来ることが多く、
- 「挙シ申ベシ」卜仰下ス/「浮橋渡スベシ」ト下知セラル(盛衰記)
- 覚一本の命令形と対応する箇所もある
- 「土佐ノ畑へ流シ奉ルベシ」トゾ被レ定ケル(盛衰記)
- 「土佐の畑へ流せ」とこそのたまひけれ。(覚一本)
- 盛衰記の語法が覚一本よりも新しいことを示すものか
- 命ニ随テ、御命ニ背キガタサニ、など、命令と判断できる表現と共起することがある
- 以上より、
- 盛衰記の頃のベシには命令形に近似した命令が存在したと考えられ、
- 覚一本に比べて命令のベシが多用されており、盛衰記の語法が覚一本よりも新しいことを示す可能性がある
雑記
- これ知らなかった