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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

彦坂佳宣(2019.3)カ行変格活用の全国分布とその解釈

彦坂佳宣(2019.3)「カ行変格活用の全国分布とその解釈」『国語語彙史の研究』38

要点

  • カ変の分布について以下の点を指摘
    • 一段化したキの発現が人口減地方に見られ、規範が緩んだことによるものであること
    • ベーへの接続の揺れが変種キの伸張を促したこと
    • 広域に分布する変種が他の活用形にも及ぶこと

前提

  • いわゆる基本的なカ変を「正格」、そこから外れるものを「変種」として、GAJを見る

方言分布

  • GAJ162「来はしない」
    • 東西でコナイ・コンの対立、近畿周辺には新しい迂回的否定形があり、キモ(セン)、コヤ(ーヘン)、クレ(ヘン)など
    • 新しい否定形は、西では広く東では中央に限定される
  • 受身・可能・使役において、キ・クの分布が似る
    • GAJ116「来られると」
      • 東西主要地域に上一段のキ(られる)が見られる
      • 西は東に比べ、正格と変種の併用が多い
      • 出雲はコラレー・キラレー・カラレーで揺れるが、これはマイの接続の揺れと連動する
    • GAJ178「来ることができる」
      • 北東北にクル(ニイー)、鹿児島はキ(ガナル)など、基本はラレル類
      • 出雲はやはりキラレー・コラレーで揺れる
    • GAJ120「来させる」
      • 変種にキが多く、近畿にキ(サス)、関東にキ(サセル)
      • 分布は受身・可能に極めて似る
  • GAJ110「来よう」、GAJ90「来い」、省略
  • 変種の分布の狭いものに、
    • GAJ130「来れば」で、関東のキ(レバ)、東北日本海側のコ(エバ)など、他活用との同調がある
    • GAJ134「来るなら」も同様、茨城のキル(ナラ)の一段化などの同調あり、GAJ169「来る」も茨城にキルがある

国語史と地方文献

  • 上方語において、
    • 室町時代には変種は極稀、
    • 近世に入ると「キ(ラルル)」が咄本などにあり、『かたこと』にも指摘があることなど、上方の変種はキ(ラレル)が主であろう
    • 迂回的表現もいくらか見られるが、盛行は近代に入ってからだという(金沢裕之)
  • 東日本では、
    • 意志・推量にキヨウが多く、キラレルがいくらかある
  • 近世の地方文献において、
    • 北太平洋側におけるベーが、現在終止形接続の地域において、上一段語幹に接続している(ex.懸けべし)が、これが大正期になると「くつぺ」の例があり、この時期までに承接型の変化があったか
    • 尾張では「こうず」、「こまい」の例がある

再度分布の解釈

  • キについて、
    • 近畿では、受身・使役と1975年の人口増減図を重ねると、キの分布は人口減傾向に多く、都市部と違い規範が緩みがちな地域であると言える
      • (発現理由をひとまず「発音のしやすさ」としたが、これは特定地域に共通する理由にはならない)
    • 東日本では、太平洋側に展開する意志形のベーの承接形態の揺れが、連用形の頻度の高さを基底に画一化を志向したか
  • 狭い分布のものについては概ね、その地域的な動向が他の活用形に及んだものと見る
    • 例えば、キ(ヤセン)、キ(ラレル)などの一段への同調

雑記

  • 毎日読むという習慣づけが薄れてきてしまって困っている、罰金制度にしようかな