竹内史郎(2011.11)「近代語のアスペクト表現についての一考察:ツツアルを中心に」青木博史編『日本語文法の歴史と変化』くろしお出版
要点
- ツツアルの歴史と意味変化を、ヨル・トルとの共通性に基づいて体系的に見つつ、
- 共通語による文法史研究の有用性を示す
前提
- ツツアルには文体的制約があるといい、
- 現代語のツツアルの意味は以下のように記述されるが、
- 変化の不完結:時代は変わりつつある
- 動きの開始局面の不完結:~を動かしつつある
- くりかえし:若い聴衆を獲得しつつある
- それ以外に、「直前」や「非実現」のツツアルがあり、これは近代語には見られない
- (近づいているときに)猫が魚を食べつつある
- 会議であやうく眠りつつあった
- ここで問題2点
- ツツアルが不完成性→直前・非実現と展開したとして、その意味変化をどのように記述できるか
- 二次的アスペクトに後接するので、テイルと同等の地位を持つが、影響関係はなかったか
ツツアルの歴史
- 近世までには例は(ほぼ)なく、近代の欧文翻訳を契機に、be V-ing の訳語として発達し、
- 翻訳文から段階を経て書記文体で用いられるようになったと考えられ、そこにツツアルの「硬さ」の要因が求められる
- 近代語において、書記文体で地位を持つ表現に、ニヨッテ受身、抽象的性質の所有表現、原因主語他動文があり、
- ツツアルの「硬さ」は欧文翻訳を経て書記文体の中で発達した表現に共通する
- ツツアルは欧文翻訳の要請でテ+イル等と同様に、助詞ツツにアルを組み合わせて作られたもの
- ツツアルは通常の自律的変化で生じる(19)ものとは異なる体系(20)を作り出したと言える
意味変化
- ヨルの文法化の経路をツツアルの意味変化を考える前提としたい
- ツツアルも同様で、
- 動作進行:特別任務に従事しつつある
- 動作進行=変化進行:今日の英吉利を作りつつある
- 変化進行:消滅しつつある光景
- 主体動作動詞ツツアルは近代語では動作進行だが、現代共通語ではそう取りにくいので、もっぱら限界動詞と結びつくようになったと考えられる
- すなわち「変化進行相」とでも言うべき形式になる
- 主体動作動詞ツツアルは現代では新用法の直前・非実現の解釈となりこれもヨルと同様の特徴を持つ
テイルとの関係
- ツツアルの動作進行の衰微について、テイルとの関係を考える
- なぜツツアルの方が譲ることになったのか?
- 西日本の三項対立が、トルがヨルに入り込むことで二項対立になっている現象が指摘される(工藤2001)
- これも動作進行から意味変化が起こるので、入り込まれた側のヨルが最初に失う用法は動作進行である
- パーフェクトのトルが不完成のヨルに入り込むことを考えると、パーフェクト系の優越が認められるように思われ、テイルがツツアルに優越するのも説明がつく
- 文体差を超越する共通語だからこそ、話し言葉出自のテイルと書き言葉出自のツツアルが一つの体系を形成できたのではないか
雑記
- テアのことあんまり勉強してこなかったツケがある