ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

津田智史(2015.9)トル形の表す意味

津田智史(2015.9)「トル形の表す意味」『方言の研究1』ひつじ書房

要点

  • トルは主にアスペクト的な結果の局面を表すとされるが、「結果」を基本的な意味とせず、オルの意味から解釈されるべきである
  • 結論、トル形は「動詞の表す事態が起こり、何らかの形でそこに存在することを主体的に描写する」という基本的な意味を持ち、それが様々な意味に解釈される、と考える
  • まず、アスペクトではないトルが、いずれも「結果」の意味を含むことを確認する
    • 下向きの待遇
    • 劇的現在:冷蔵庫にビールを冷やしてたのに、お父さんが勝手にのんどるけんね(福岡市若年層)
  • アスペクトのトルは結果・痕跡・経験のいずれも「事態が終了した後の状態」である点で共通し、待遇・劇的現在も「結果」の意を含むものの、結果からの派生と考えにくいものもある
    • 非内的限界動詞におけるヨル・トルの併用(まだ泣きよる、アスペクト的進行)
    • 知覚動詞、反事実仮想、恒常的性質
    • 工藤は全てアスペクト的意味からの派生と捉えるが、ヨル・トルに動的・静的の差異があることなども踏まえれば、そう捉えなくてもよいのではないか
  • トルはテの「事態が起こった」+オルの「動詞の表す事態がそこにあることを主体的に描写する」という意味で説明できる*1
    • 軽卑的なトルは、「主体的に」という意味のうち主観的なものが焦点化されたもの
    • ムード的なトルも、「話し手自身が把握した事態」という意味から説明可能
  • ヨル・トルは確かにアスペクト的な意味を担うが、アスペクトの文法カテゴリを形成するというわけではなく、あくまでアスペクト的意味を表せる形式の一つであるというのに過ぎない

雑記

  • オンラインの会議中は普段掃除しないとことか掃除しちゃう(空気清浄機のフィルターとか)

*1:「主体的に描写するとは、話し手によって主観的にも客観的にも表し分けられるということである」(津田2013)とあるが、ちょっと何でもアリ感がないか あと、オルがそういう意味を持つ(のに、後に出てくるアル・イテルは持たない)ことの説明も気になる