ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

テンス・アスペクト

山西正子(1979.2)連体形「タル」のあらわれかた:「中華若木詩抄」のばあいを出発点に

山西正子(1979.2)「連体形「タル」のあらわれかた:「中華若木詩抄」のばあいを出発点に」『中田祝夫博士功績記念国語学論集』勉誠社. 要点 タリ・タについて、中世後期においては、終止形・連体形ではタが優勢であるが、連体修飾の場合にはタルの存在も無…

山本佐和子(2012.6)中世室町期における「ねまる」の意味

山本佐和子(2012.6)「中世室町期における「ねまる」の意味」『國學院雑誌』113(6). 要点 抄物に以下のような~テネマルがあることに注目して、ネマルの語史を記述する。 盆瓶ヲ洗テネマル婦女ノアルマテソ。(四河入海) 本動詞のネマルは名語記に初例が…

釘貫亨(1999.7)完了辞リ、タリと断定辞ナリの成立

釘貫亨(1999.7)「完了辞リ、タリと断定辞ナリの成立」『万葉』170. 要点 「どのような文法的条件によってテアリからタリが、ニアリから断定ナリが、また動詞+アリからリを生起したのか」について考える。 タリ・テアリについては、以下の特徴が認められる…

野村剛史(2015.5)通時態から共時態へ:その2(アスペクト・テンス体系の場合)

野村剛史(2015.5)「通時態から共時態へ:その2」『国語国文』84(5). 要点 野村(2013)で主張した「共時態の記述に際する通時的研究の重要性(不可欠性)」について、アスペクト・テンス、ノダ文を例にして述べる(後半は次の記事で) 言語学研究会の提示…

ハイコ・ナロック(2004.10)メリ、ベシの過去と「連体ナリ」

ハイコ・ナロック(2004.10)「メリ、ベシの過去と「連体ナリ」」『国語国文』73(10). 要点 北原の連体ナリを基準とした分類に、承接順序がおかしいものがあることに注目して、メリ・ベシと過去の承接について考える メリ・終止ナリ > 連体ナリ かつ キ・ツ…

小木曽智信(2010.10)明治大正期における補助動詞「去る」について

小木曽智信(2010.10)「明治大正期における補助動詞「去る」について」『近代語研究15』武蔵野書院. 要点 明治期には以下のようなアスペクト的な「V去る」があり、 まだ自己が天理の中に融合し去らない点があり、道を外に求むるためである。(太陽1909-01)…

大西拓一郎(1999.11)新しい方言と古い方言の全国分布:ナンダ・ナカッタと打消過去の表現をめぐって

大西拓一郎(1999.11)「新しい方言と古い方言の全国分布:ナンダ・ナカッタと打消過去の表現をめぐって」『日本語学』18(13) GAJ151の打消過去の分布と中央語史を比較したい p.100 GAJ151「行かなかった」では、 東にナカッタ、西にナンダ ナンダ類を囲むよ…

近藤泰弘(1992.3)丁寧語のアスペクト的性格:中古語の「はべり」を中心に

近藤泰弘(1992.3)「丁寧語のアスペクト的性格:中古語の「はべり」を中心に」『辻村俊樹教授古稀記念日本語史の諸問題』明治書院. 要点 ハベリは謙譲語的側面と丁寧語的側面があるが、そのアスペクト的性格については明らかでない ハベリと非敬語の対応と…

木下書子(1993.12)「けん」から「つらう」へ:「る」「らる」を承ける場合を中心に

木下書子(1993.12)「「けん」から「つらう」へ:「る」「らる」を承ける場合を中心に」『国語国文学研究』29 要点 ケンからツラウへの交替について、特に上接語の制限を中心に考えたい 当初のツランはケンの領域を侵さないのだが、 これはツの上接語の制限…

山田潔(2020.5)『玉塵抄』における「らう・つらう・うずらう」の用法

山田潔(2020.5)「『玉塵抄』における「らう・つらう・うずらう」の用法」『国学院雑誌』121(5) 要点 標題形式について、以下の3点を考える ツラウが多くコソの結びとして用いられること ラウの上接語がアルに偏ること ウズラウがコソ・ゾと呼応せずにカと…

山田潔(2001.9)助動詞「らう」とその複合辞(4)助動詞「らう」「うずらう」の用法

山田潔(2001.9)「助動詞「らう」「うずらう」の用法」『玉塵抄の語法』清文堂出版、初出2001 要点 ツラウに引き続き、ラウ・ウズラウの意味用法について考える ラウについて、 ゾ・コソの結びが大半を占め、村上1979の言う通り、推量の強調をラウが担うと…

山田潔(2001.9)助動詞「らう」とその複合辞(3)複合助動詞「つらう」の用法

山田潔(2001.9)「複合助動詞「つらう」の用法」『玉塵抄の語法』清文堂出版、初出1995 要点 室町のツラウについて考える 斯道本平家のケンは天草版ではツラウに交替する ケンの用法を以下の3種に分類すると、ケン→ツラウの例はA, Bしか見られない(木下書…

山田潔(2001.9)助動詞「らう」とその複合辞(2)複合助動詞「つらむ」の用法に関する一考察

山田潔(2001.9)「複合助動詞「つらむ」の用法に関する一考察」『玉塵抄の語法』清文堂出版、初出1993 要点 平家のツラムについて、キ・ツの問題を踏まえながら考える キ・ツは意味的に近似し、キは現在との交渉を持たない過去を、ツは何らかの意味で交渉を…

山田潔(2001.9)助動詞「らう」とその複合辞(1)平家物語における助動詞「つ」の文章論的考察:助動詞「き」との比較を通して

山田潔(2001.9)「平家物語における助動詞「つ」の文章論的考察:助動詞「き」との比較を通して」『玉塵抄の語法』清文堂出版、初出1986 これのつづき hjl.hatenablog.com 要点 ツの完了・強意以外の意味用法の分析を、(ヌではなく)キと比較する形で行う …

赤峯裕子(1989.6)「まだ~ない」から「まだ~ていない」へ

赤峯裕子(1989.6)「「まだ~ない」から「まだ~ていない」へ」『奥村三雄教授退官記念国語学論叢』桜楓社 要点 標記の2形式について、後者の形式は思いの外新しく、前者→前者+後者への移行は、分析的傾向の一つの現れと考えられる なんだ、湯はまだあかね…

津田智史(2015.9)トル形の表す意味

津田智史(2015.9)「トル形の表す意味」『方言の研究1』ひつじ書房 要点 トルは主にアスペクト的な結果の局面を表すとされるが、「結果」を基本的な意味とせず、オルの意味から解釈されるべきである 結論、トル形は「動詞の表す事態が起こり、何らかの形で…

木部暢子(2006.5)九州方言の可能形式「キル」について:外的条件可能を表す「キル」

木部暢子(2006.5)「九州方言の可能形式「キル」について:外的条件可能を表す「キル」」『筑紫語学論叢Ⅱ』風間書房 要点 長崎で、能力可能だけでなく外的条件可能にも、労力を必要とする場合に限ってキルが使われる(木部2004)ことについて考える 長崎市…

木部暢子(2004.3)九州の可能表現の諸相:体系と歴史

木部暢子(2004.3)「九州の可能表現の諸相:体系と歴史」『国語国文薩摩路』48 要点 九州方言の可能表現は、~キルと~(ラ)ルルの2種類 キルは能力可能、ラルルは外的条件可能 (2~4節、概観・調査概要・問題点) 久留米市・大牟田市・熊本市:キルが能…

須田淳一(2005.11)ミ語法の時と主体

須田淳一(2005.11)「ミ語法の時と主体」『国語と国文学』82(11) 要点 ミ語法のミは、意味的には属性と活動、機能的には修飾と述定に跨る(須田1997) これを踏まえて、統語論的振る舞いを考えたい (i) ミは形態的テンスを欠き、キ・ケリやムとも共起しない…

吉田茂晃(2004.3)文末時制助動詞の活用形について

吉田茂晃(2004.3)「文末時制助動詞の活用形について」『山辺道』48 前提 吉田(2001) 会話文における弱活用の連体形終止の用例は終止形のそれよりもむしろ多く、 連体形は叙述の流れを切るところにその本質がある 動詞述語文で係助詞と文末活用の関係が確…

土岐留美江(2014.9)動詞基本形終止文の表す意味:古代語から現代語へ

土岐留美江(2014.9)「動詞基本形終止文の表す意味:古代語から現代語へ」『日本語文法』14(2) 前提 動詞基本形終止文について考える 古代語のムと現代語のウと動詞基本形の意味には並行性がある 現代語では意志を表す場合、終止形・ウ・ツモリが用いられる…

糸井通浩(2009.11)古典にみる「時」の助動詞と相互承接:「枕章子」日記章段における

糸井通浩(2009.11)「古典にみる「時」の助動詞と相互承接:「枕章子」日記章段における」『国語と国文学』86(11) 前提 「時の助動詞」の相互承接は以下の通り 縦・横の点線は相互に結合することがあり、実線は結合することがない p.2 ム どういう範列的・…

黒木邦彦(2012.10)中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って

黒木邦彦(2012.10)「中古和文語の動詞派生接尾辞-ツ-, -ヌ-:承接順位を巡って」丹羽一彌(編)『日本語はどのような膠着語か:用言複合体の研究』笠間書院 要点 ツ・ヌの承接順の共通点と異なりから、ヌと共通するツ(ツ1)とは、異なるツ(ツ2)の存在を…

小田勝(2010.1)相互承接からみた中古語の時の助動詞

小田勝(2010.1)「相互承接からみた中古語の時の助動詞」『古典語研究の焦点 武蔵野書院創立90周年記念論集』武蔵野書院 要点 まとめより 1 ヌはアスペクトであるが、テンスをもたない文を作る(作り得る)。 1b 従って、現代語のテンス・アスペクト体系の…

小田勝(2008.2)中古和文における助動詞の相互承接について

小田勝(2008.2)「中古和文における助動詞の相互承接について」『岐阜聖徳学園大学紀要 外国語学部編』47 要点 要旨より、 相互承接に両様あるものは6種あるが、その一方を標準的承接順とみなすことができる 中古和文の助動詞は、その承接順を一様に確定す…

福田嘉一郎(1991.4)ロドリゲス日本大文典の不完全過去について

福田嘉一郎(1991.4)「ロドリゲス日本大文典の不完全過去について」『詞林』9 要点 大文典の「直説法・不完全過去」に現在形が含まれるが、これは連体法である 前提 ロドリゲスは直説法において、ルもタも「不完全過去」を表すものとし、これはアルバレスラ…

泉基博(1995.11)『十訓抄』における「つ」と「ぬ」:史的変遷を中心にして

泉基博(1995.11)「『十訓抄』における「つ」と「ぬ」:史的変遷を中心にして」『宮地裕・敦子先生古稀記念論集 日本語の研究』明治書院 要点 「つ」「ぬ」の転換期である中世前期の様相を『十訓抄』を元に考える 使用量と活用 源氏から十訓抄にかけて、ヌ…

竹内史郎(2018.3)動詞「ありく」の文法化:平安時代語のアスペクト表現における一考察

竹内史郎(2018.3)「動詞「ありく」の文法化:平安時代語のアスペクト表現における一考察」『国語語彙史の研究』38 要点 アスペクト的に使われるアリクの文法化について記述し、 文法化研究と琉球諸語研究に位置付ける 琉球諸語の「歩く」 伊江島方言におい…

竹内史郎(2011.11)近代語のアスペクト表現についての一考察:ツツアルを中心に

竹内史郎(2011.11)「近代語のアスペクト表現についての一考察:ツツアルを中心に」青木博史編『日本語文法の歴史と変化』くろしお出版 要点 ツツアルの歴史と意味変化を、ヨル・トルとの共通性に基づいて体系的に見つつ、 共通語による文法史研究の有用性…

福嶋健伸(2011.3)中世末期日本語の~ウ・~ウズ(ル)と動詞基本形

福嶋健伸(2011.3)「中世末期日本語の~ウ・~ウズ(ル)と動詞基本形」『国語国文』80(3) 前提 ウ・ウズ(ル)が連体節内に生起することについて、 この学者を殺さうことは本意ない / 不慮の恥にあわうずる事わ家のため、 山口(1991)は「ムードという主…