柳田征司(2007.10)「上代日本語の母音連続」『国学院雑誌』108(11)
前提
- 母音連続に関する以下の諸問題について考える
- なぜ脱落や転成が起こったか
- なぜ全ての母音連続には起こらなかったか
- 平安時代以降それが起きなくなるだけでなく、イ音便が定着するのはなぜか
母音連続忌避の有無
- 母音連続の脱落・転成例について、以下の3点
- 後部要素が形式語である場合に脱落・転成の語数が多い
- 母音の〈広ー狭〉と〈狭ー広〉とを比べると、前者の語数が多いが、ともに脱落・転成を起こしている
- 脱落・転成例はさほど多くなく、後部要素が実質語である例は特に少ない
- 母音連続例の、字余りになっていない例外的な母音連続は以下のようなものがある
- ヤ・ワ行動詞:オイヅク、クイテ、コイフス
- イ音便:カイヌク、マカイ
- 一音節語を含む複合語:ヨイ(夜眠)、ヤスイ(安眠)
- 本文の検討が必要な例
- 切れ目がある例:ノイザリ、ノイトマ、ノイノチ、
- 以下の3点が指摘できる
- 全体が脱落・転成例より少なく、忌避が進行していたことが分かる
- 脱落・転成例に比べて後部要素が形式語である例が極めて少ない。特にこの場合に脱落・転成が進行したことがわかる
- 〈広ー狭〉と〈狭ー広〉とでは、後者の方が多く、この場合に脱落・転成が起きにくかったか
- 母音連続例は全体として極めて少ない
分析
- 冒頭の3つの問題について考える
なぜ脱落や転成が起こったか
- 〈広ー狭〉の場合、強い母音から弱い母音への連続なので、一音節になりやすい
- 〈狭ー広〉の場合も、日本語の本来の音節構造であるCV音節は、「どこかを閉じてその後に開く」という構造であるが、CVVは「閉じて少し開いて更に開く」構造なので、一音節になりやすい
- こうしてできた母音連続による一音節を、「粒の揃った」ものにするために、脱落・転成が起こったと考える
なぜ全ての母音連続には起こらなかったか
- 一音節になるわけにはいかない例(ヤ・ワ行動詞、一音節語)や、構成上一単位になりにくい例(切れ目があるもの)には起こらなかった
- 字余りの場合には脱落・転成が進んでいたことを見たが、語形の一部が損傷してしまうので、それを避けるため、全ての母音連続には起こらなかったのではないか
平安時代以降それが起きなくなるだけでなく、イ音便が定着するのはなぜか
- 脱落・転成が起きなくなるのは音便の一般化によるもので、
- イ音便によって生じた母音連続の後部母音が一音節として独立することにより、複合による母音連続(アライソ)も二音節となった
- このことにより、「語形を損傷することなく、音形の粒を揃える」ことが可能となる
雑記
- 分かる
言語学系の本をアマゾンで見るとすごい低評価になってるのが多いが、その原因がYAGURUMA 剣之助なる人物。三浦つとむの言語観を唯一絶対正しいものとして、それ以外に星一つをつけて回る。五つ星つけてるのは素人の本だが、これが本人だろうか?こういうど阿呆なんとかならないのかなあ
— 橋本陽介 (@qiaoyang915) March 10, 2017