釘貫亨(1990.6)上代語動詞における自他対応形式の史的展開
釘貫亨(1990.6)「上代語動詞における自他対応形式の史的展開」佐藤喜代治編『国語論究2 文字・音韻の研究』明治書院
要点
- 上代語動詞の自他対応に3つのパターンを見出し、より合理的な方向へと進んだものと推定する
上代語の自他対応
- 上代語における自他対応は次の3つのパターン
- 第1群 活用の種類による対応(四段知る・下二段知る)
- 第2群 語尾による対応(なる・なす)
- 第3群 語幹の増加・語尾付接による派生(荒る・荒らす)
- 第1群は四段・下二段の並存によるものが多いが、かといって他の並存もあり、ここに一般的対立を見出すことができない
- すなわち、語彙的意味の差異を普遍的文法形態に担わせることは難しいのであくまでも対立はそれぞれの語で決まるものとなり、記憶の負担が求められる
- これらの動詞群において、第2群・第3群の対応・派生が認められる(寄す・寄る)ことも、第1群だけでは不十分であったことを示す
- 第2群はル・スによる対応が多く、それ以外(誤る・誤つ)のものもあるが、ル=自動詞、ス=他動詞であることには例外がない
- すなわち、第1群に比して合理的なものであるが、歴史的な先後関係は分からない
- 以下の理由により、第1群が第2群に先行するものと考える
- 第1群動詞に2音節動詞が多く、第2群において3音節動詞が多い
- ただし、2音節動詞は同音衝突するためル・スの派生が行えない(ことが多い)ので、第3群の派生が求められたのであろう
- 第1群動詞にル語尾・ス語尾のものが少ない
- ル語尾動詞は特に3音節以上で自動詞的、ス語尾動詞は大多数が他動詞的であり、第2群から第1群の供給が少なかったことを示す
- 第1群動詞に2音節動詞が多く、第2群において3音節動詞が多い
- 第3群は第1群・第2群の問題を解決するものとして登場した
- 例えば、枯る→枯す は同音衝突するが、 枯らす では起こらない
- 以上の自他対応形式は、それぞれが歴史上の異なる段階において伝達要求に応じて出現したものと推定され、これは「当座の要求を充たすためだけのものであった」から、後発の対応形式が発達し得たし、全てが淘汰されるということもなかった
雑記
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