松尾弘徳(2009.6)「新方言としてのとりたて詞ゲナの成立:福岡方言における文法変化の一事例」『語文研究』107
要旨
- 福岡における若者中心の方言の変化に見られる、助動詞ゲナが「数学げな嫌い」となる、とりたてのゲナの成立について
九州のゲナ
- 近世期には中央語でも用いられており、現代でも九州一帯に広く分布
- そこの家で赤ん坊が生まれたげな。(伝聞)
- 伝聞ゲナはやや衰退しているが、近年新用法が見られる
- ナンデ 数学ゲナ セナ イカン トー。 イッチョン スカン(なぜ数学なんかしなければならないの。 大嫌い!)
- こげな所げな聞いとらんばい!(ひろし:こんな所なんて聞いてないよ!)
- 以下、伝聞ゲナをゲナ1、新用法のゲナをゲナ2とする
- 伝聞ゲナは伝聞の助動詞
- 新用法は否定的特立を表す、とりたて詞に該当
- アンケート調査を行うと、
- 地域的には福岡方言話者が多い
- 使用層には若年層が多い
- 「ある時、 親に①(ゲナ1)の使い方は正しいが、 ②(ゲナ2)の使い方は間違っとると怒られた記憶がある」(23歳男性・福岡)
- ゲナ2のみ使用する被験者も数名おり、これも若年層、福岡市に限られる
とりたてのゲナ
- 成立に関して、様態のゲナ(学校ノゲナ所/数学ノゲナ勉強)からの変化したとする先行論がある
- 様態のゲナが老年層でも活発でないことから、受け入れ難い
- 文レベルのとりたてをする(そんなことがあったゲナ知らんかった)ことも、様態ゲナ説を否定する
- 伝聞からの派生を考えると、その中間に、引用マーカーのゲナの存在が想定される*1
- 「○○さんが私に仕事しろ」 ゲナ言うとよ。
- 現代共通語でも、「~という。/~という噂」「~って。/~って言ってた」のように伝聞と引用の形式が共通である場合あり
- [「引用部分」+ゲナ]述部 の構造が再分析されてゲナ2を生じたと考える
- ゲナ2がとりたてとして認められる根拠としては、
- 「否定的特立」という、評価の性質を持つこと
- 統語的に任意性があり、助詞の後接を許すこと(お前にゲナやらん/お前にφやらん)
- ゲナ2がとりたてとして認められる根拠としては、
- 「ガヤウナ」出自のゲナもとりたてゲナの成立を後押しした
- コゲナコト/N1のようなN2
- 引用マーカーとして文中で使用可能となったゲナが、例示的なゲナ(<ガヤウナ)の関与を受け、例示機能をもつとりたて詞な語となったか
- 「ソゲナ」は福岡に限られる(他地域はソゲン・ソガン・ソギャンなど)
- 同様の事例に、ナリ・タリ・ヤラがある
雑記
- 皿洗いの必要もなく安くてうまいし健康にも良さそうなのでときおりサバ缶を買うようになって、賎しいかなと思いながら汁を飲んでしまう
*1:「なんて」も「などと」由来で、並行する事例だと思う。